宇治茶に学ぶ地域ブランドのファン育成戦略

先日京都の宇治に行く機会を得ました。世界遺産である平等院宇治上神社、美しい宇治川の流れや源氏物語の宇治十帖にまつわる散歩道など、かなり満喫したのち、宇治茶を飲んで締めようと考えていました。そして何気なく入った宇治川のほとりの喫茶室にたいへん感銘を受けたのです!

宇治茶道場匠の館というその喫茶室は、京都府茶業会議所が運営しているようです。定款によると京都府茶業会議所の目的は、茶業振興のための総合的施策を樹立推進すること。そしてこの観点から考えて、宇治茶道場匠の館はとても優れた活動を行なっていました。

宇治茶道場匠の館でお茶を頼むと、もれなく日本茶インストラクターの店員さんがついてきて、お茶を本当においしく淹れる方法を簡潔に教えてくれます。方法自体は簡潔であっても、その説明にはさまざまな豆知識がついてくるし、それがお茶の世界に宇治ならではのストーリーを紡ぎだす。(ストーリーの重要さは、コラム:ご当地グルメは“つくる”べきか、“みつける”べきかも参照)

ご当地グルメは“つくる”べきか、“みつける”べきか

そして教えてくれるけど、淹れてくれない。自分で淹れさせる。そうやって淹れられたお猪口 1 杯分程度のお茶は、驚くほど甘くておいしい。今まで自分が飲んできたお茶は何だったんだ、と残念な気持ちになっていると、よくあるモッタイナイお茶の淹れ方を紹介され、今までの自分の姿に重ね合わせる。そうか、お茶はこうやって飲むものだったのか、アタマだけではなく舌でも手でも学習し、自分で淹れているから家に戻って復習できる。2 煎目、3 煎目とお湯の温度を変えながら、お茶の変化を楽しんでいく。

お茶も出なくなって、そろそろという頃に、テーブルの上のポン酢に気づく。出がらしのお茶っ葉にポン酢をかけて食べるよう、店員さんから提案を受ける。想像もしなかった幕引きで、想像以上の味に舌鼓を打つことになる。そして家でもやってみよう、そう決心して店を出る。

お茶を飲ませて対価を得ることは決して主目的ではない

日本茶インストラクターの店員さん、はじめはそれを付帯的なサービスだと感じていたのだが、とんでもない。実はこれこそが宇治茶道場匠の館の「事業」であって、お茶を飲ませて対価を得ることは決して主目的ではないんですね。ここは喫茶室の姿をした宇治という地域文化の啓蒙施設であり、店員さんも店員の姿をしたエバンジェリストに他ならないのです。

宇治茶道場匠の館のサービスが優れているのは、以下の 3 つの点に集約されます。

  • おいしいお茶の淹れ方を啓蒙している
  • お茶の新しい楽しみ方を提案している
  • 結果として、将来にわたってお茶をより楽しめるようになる

1 時間程度の短い滞在であったにも係わらず、ものすごく楽しむことができました。人間は、事前の期待レベルと実際の体験のギャップがポジティブに大きければ大きいほど満足します。このケースの場合、事前期待は「宇治茶を飲みたい」といった程度で、正直に言うと「観光地だし、どうせ大したことないだろう」という諦めすらありました。その程度だった期待は、いい意味で完全に裏切られました。お茶を飲むだけではなくストーリーとして満喫し、家でも楽しもう、そうだ、お茶を買って帰らねば、という気分にさせられます。

これは、お茶代 600 円よりもずっとずっと価値があることですよね。確かに短期的には 600 円しか稼げないかもしれない。そしてハイスペックな人材に店員をさせ、一組の客にものすごく長い時間を投資することで、人件費も必然的に嵩んでいく。まったくもって短期的視点で考えるとペイしない事業であり、お茶屋さんとしての経営状態はおそらく周りのお茶屋さんの方が圧倒的に優れているはずです。しかし、ファンを作り、育てていくこと。これは短期回収を意識しすぎたビジネスでは敬遠されがちですが、地域ブランド、地域活性や地域文化の伝承という観点では、必ず考慮されなければならないポイントです。宇治茶道場匠の館の活動は、地域ブランドを推進していくにあたって大切なことを示唆しています。地域ブランドの育成に取り組んでいる人たちには非常に参考になる事例ではないでしょうか。こういう活動があればこそ、京都の地域ブランド力の高さにも頷けるというものです。


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜

ポイント

  • 地域の、ないしは地域の特産物のファンを作り、育てていくことは地域ブランドの発展にとって必要不可欠である
  • ブランドならびにブランドのファンの育成には長期的な視点が必要となることを理解する
  • ファンを獲得するには、顧客の事前期待に対する仮説を持ち、それをポジティブに裏切るにはどのようにすればよいかを突き詰めて考える

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