「品質に妥協しない事はメーカーの義務」 ~創作珍味「かね徳」に学ぶブランド作り~(株式会社かね徳)

今回は兵庫県芦屋市に本拠を構える創作珍味の会社「かね徳」さんに行ってきました。取材にお答えいただいたのは、同社の直営店舗「かね徳芦屋工房」(以下「芦屋工房」)を担当されている藤田尚子氏と、丹野隼人氏です。取材では、商品へのこだわりと同社の2つのブランド「かね徳」と「芦屋工房」の住み分けや各々のブランド戦略についてお聞きしました。

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対応いただいた藤田さん(左)、丹野さん(右)

会社紹介
株式会社かね徳(以下かね徳と記載します)は大正14年に創業した会社で、日本で早くから創作珍味の開発・販売を開始しました。飛魚の魚卵から作る「とびっこ」やうにの新しい可能性を引き出した「くらげうに」などを以て、古くより日本の創作珍味業界を牽引してきました。現在は「芦屋工房」を通じて『まごころを贈る』を合言葉にお客様への上質な時間の提供を目指し、店舗販売やインターネット販売、カタログ販売に力を入れています。

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芦屋工房自慢の商品たち。直売店でしか買えない商品もあります。

かね徳のブランド戦略
~「かね徳」「かね徳芦屋工房」の2ブランドの住み分けとその役割~

かね徳さんの商品の中には「かね徳」「かね徳芦屋工房」と2種類のロゴが見られるのですが、それぞれの住み分けはどのようになっているのでしょうか?

まず、「かね徳」の方は“使い勝手の良さ”や“日常使い”を意識して商品開発・販売を行っています。日常的な晩酌やご飯のお供として、品質と価格の兼ね合いを考えながら親しみやすい製品になるように取り組んでいます。

「芦屋工房」の方はどのようなコンセプトをお持ちでしょうか?

「芦屋工房」では「“上品で上質”であること」をテーマとしており、少し贅沢をしたい時や贈り物とする時を想定しています。その為こちらでは仕入れた素材の中から最も良い部分を使い、品質と味にこだわりぬいて製造しております。

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「かね德」ロゴ(左)、「芦屋工房」ロゴ(右)

2つのブランド間のユーザー移動などは見られるのでしょうか?

普段は「かね徳」を利用してくださるお客さんが正月などの行事の際やお歳暮などの贈り物で「芦屋工房」を利用してくださる事も多くあります。また贈り物として「芦屋工房」をもらった方が日常使いとして「かね徳」を、贅沢をする際に「芦屋工房」をと使い分けて購入されるという方も見られます。

「芦屋工房」での“こだわり”とはどのようなものでしょうか?

品質面では「最高品質のものを用いて製造し、最も良い状況でお届けするために充実した包装や店頭での商品説明を行う事」を心掛けています。例えば看板商品である「極粒いくら」は毎年10月中旬に仕込み販売をするのですが、販売年度ごとの味の違いをチャートにして紹介したり、その生産過程のこだわりをお伝えしたりして“舌”も“心”も満足していただけるようにしています。

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「極粒いくら」の新物は10月中旬より芦屋工房の店頭またインターネットショップ、カタログより販売開始

「芦屋工房」のブランド作りにおけるこだわりなどはありますか?

価格ではない部分で勝負をするという事ですね。価格を下げることはトライアルが増えたり購入者の満足度が上がったりする事が考えられるのですが、ブランドの価値自体を下げることになりかねないと考えています。現在の価格設定に満足して購入してくださっているお客さんの為にも、品質の向上や付加価値といった価格面以外での働きかけを心掛けています。

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弊社が“ブランド価値”についてセミナーやプレゼン時に使うスライド。価格を下げることによりブランド毀損が起きかねない」と論じた記事もご覧下さい。

【福島・宮城・岩手】旅行代金半額補助:止めるべきだねというお話(追記2箇所あり)

また、店頭でのコミュニケーションも大切にしています。「食べ比べがしたい」「常温保存商品があると嬉しい」などといった声よりヒントをいただき、商品開発や売り方の工夫などを行っています。お客さんに飽きることなく利用し続けてもらえるように常に品質・サービスの向上を目指しています。

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お客様の声に応えて販売を開始した、五種類のうにスティックの食べ比べセット(右側)

「いかにして見つけてもらうか」
~新規顧客の開拓とインバウンドマーケティング~

購入者の年齢層はどのようになっていますか?

年齢層は高めで40代~60代のお客さんがほとんどとなっています。またリピーターが多いというのも特徴的です。そのため新規顧客の獲得、特に若い層へのアプローチを課題として取り組んでいます。

若い層へのアプローチという課題に対して具体的にどのような事をされていますか?

「珍味」はこれまで“お酒のお供”として売り出すことが多かったのですが、若者のお酒離れという状況を受けて“ご飯のお供”として売り出す事であったり、インターネットでの販売に力を入れたりしています。また、直営店では店内に気軽に入っていただくきっかけ作りとしてソフトクリームの販売も開始しました。

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とびっこやくらげを取り込んだソフトクリームもあります。取材後にいただいたのですが、どちらも触感が楽しく美味しかったです。バニラも原料にこだわっており絶品!!
※冬季はソフトクリームの販売を休止しています

インターネット販売の際のこだわりや工夫などはありますか?

インターネットでの販売の場合、価格勝負となってしまう事が多いため価格勝負という舞台ではなく、十分にコンセプトやこだわりを伝えられる舞台への出品に注力するようにしています。まずは見つけてもらわない事には何も始まりませんので、いかにして見つけてもらうかについては現在試行錯誤をしているところです。また、「芦屋工房」では「まごころを贈る」というキャッチフレーズを掲げており、このキャッチフレーズやこだわりをいかにインターネット上でお客さんに伝えていくかという事も課題の一つとしてあります。

かね徳さんの目指す「芦屋工房」のブランド像とはどのようなものでしょうか?

私達の目標は「お土産の際に“かね徳芦屋工房”というラベルが、送り手のまごころや感謝を伝えるアイテムとなるほどのブランドになる」という事です。その為にも私たちの想いや品質へのこだわりを知っていただくと共に、ブランドに恥じない品質の商品やサービスを目指し続けていきたいと考えております。

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創業者である東村德太郎氏の「龍」の一字。神戸酒心館さんとのコラボ商品である日本酒『龍』のラベルに使われている。(奥の青いボトルが『龍』。隣は丹波ワインさんとコラボした白ワイン「和(なごみ)」。)

(所感)
ブランドとしての「あるべき姿」とコト売り思考

ブランドを考える上で「どのようなブランドになっているか」ではなく、「どのようなブランドとなりたいか」という事を考えることはとても重要です。ブランドとして「あるべき姿」をしっかりと思い描き、そこに向けて必要な事を考え行動しているかね徳さんの姿勢は素晴らしくお手本の様だと思いました。
また、商品から一歩踏み込んで「芦屋工房を媒体として巻き起こるストーリーの提供」というコト売り思考も上手く生かすことで、お客さんより“商品”ではなく“かね徳”を愛してもらえるような存在になれるのではないかと思いました。

モノ売りからコト売りへ ~長期顧客を獲得したければ、感情的インセンティブを刺激すべし。

取材を終えて

取材後は吸い込まれるように「お客さん」として店内に。素敵なコンセプトや熱い商品の説明を聞いた以上は買わないなんて選択肢は浮かびませんでした。自宅用は勿論の事、「贈りたい(そして商品について語りたい)」と思い、郵送もお願いしてしまいました。看板商品である「極粒いくら」の新物が10月の中旬に発売されるとのことですので、ぜひ食べてみたいので買いに行こうと考えております。

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直売所である「かね徳芦屋工房」の店構え


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜