なぜ淡路島には徳島ナンバーがあまり走っていないのか

淡路島を訪問する機会をいただいたので島内を周ってきたのですが、興味深いことに気付きました。島内どこのエリアであっても、「神戸ナンバー」の車ばかりが止まっているのです。徳島ナンバーは、神戸ナンバー 20 台に 1 台程度だったのではないかと思います。

淡路島は兵庫県だろ、しかも神戸ナンバーなんだ、当たり前じゃないか。これの何が興味深いんだ、という指摘ももっともなのですが、この観察内容の興味深さを語る前に簡単な観光のロジックを考えてみたいと思います。

観光のロジック

観光客数は、基本的にごく少数の変数で考えることができます。それを単純化して表現したものが次の式となります(コラム:掛け算で考えるも参照してください)。

掛け算で考える

観光客数 = 人口 × 認知度 × 相対的魅力度 × コスト

人口はそのまんまです。人口です。極端な話として、全地球人の数で問題ありませんし、日本人観光客数を考えるのであれば日本人の人口でも構いません。基本的に人口は変数とは言えコントロールできないため、深く考えてもどうしようもない項目になります。ただし、ここで定義した人口をベースに、以降の変数(認知度、訪問意向、コスト)を考えなければならないということだけ注意しましょう。

認知度とは、その観光地をどれくらいの人が知っているか、という指標です。一般に認知度と言った場合、認知の広さと認知の深さの双方を指すことになります。認知の広さとは、その観光地の名前や場所等を知っている人の割合(この時分母は上で定義した人口になります)のこと。そして認知の深さとは、その観光地の中身をどれくらいの人がしっかりと理解してくれているか(その割合)となります。

淡路島を例にとりますと、「淡路島の存在を知っている」という人は、広さという意味で認知を獲得できていると考えられます。一方で、「淡路島にはミョウバンを使用しない由良ウニというおいしいウニが食べられる」「古事記や日本書紀の国産みの神話において、淡路島は日本列島の中で最初に創られた島で、イザナギの神を祀った伊弉諾神宮という神社がある」といったことを知らなければ、深い認知はないものと考えることになります。認知の広さも重要ですが、大観光地でもない限り、認知の深さも同様に非常に重要になってきます。当然、深い認知をしている人が多ければ多いほど有利です。

相対的魅力度は少しだけ複雑な概念です。観光客は通常、「観光地に行くことで何か達成したいこと」があって観光に行くのですが、その際の選択肢というのはひとつであることは稀です。通常、いくつかの選択肢があってその中からひとつを選択することになります。ここでいう相対的魅力度とは、距離の制約を無視した場合において、その観光地はどれくらい他と比較して魅力的なのか、という概念になります。

例えば、温泉に入ってゆっくり休みたいという場合、伊香保温泉、城崎温泉、野沢温泉といった様々な温泉と淡路島の洲本温泉は比較されることになります。一般的に、遠方の観光地であればあるほど非日常感からくる魅力度は高くなる傾向や、認知が深くなればなるほど価値に対する確実性が増えるため魅力的になる傾向が見られます。

コストには 2 つの意味があります。ひとつが金銭的コスト、もうひとつが時間的コストです。これらコストが増えれば増えるほど、訪問客は減ってしまいます。たとえどれだけ魅力的な観光地であっても、コストが高ければ観光客はなかなかやって来ません。日本人がヨーロッパ人と比べてあまりパリの観光をしないのも、コストが大きな問題だからだということは簡単に想像できると思います。

金銭的コストとは、そのまんま。その観光を完了するためにいくらくらいかかるのか、というコストです。もうひとつの時間的コストとは、その観光を完了するためにどれくらいの時間が必要なのか、というコストです。

例えば、京都に住んでいる人にとって、札幌に行くのも淡路島に行くのも、どちらも時間的には大差がないかもしれません。しかし、札幌に行くには飛行機を使用しなければならない、淡路島には車で行くことができる、ということから札幌の方が高コストだと考えることが一般的です。このコスト感覚は当然人によって変わります。例えば自動車を所有していない人にとって淡路島に行くには非常に時間コストがかかるかもしれません。結果的に札幌のほうがコストが低いということが生じても不思議ではありません。

まとめると、観光客数は、人口、認知の広さと深さ、相対的な魅力度、そして金銭コストと時間コストを考えることである程度把握することができるのです。

観光と地域活性化とは 【地域活性化用語集】


(観光と地域活性化について考える上での基本的な考え方は、こちらの「地域活性化用語集」で詳しく論じています。こちらも併せてご覧ください。)

淡路島のケースを神戸と徳島で比較する

さて、ようやく本題です。淡路島では、神戸ナンバーと徳島ナンバーの比率が 20 : 1 くらいであるという観察結果を得ることができました。もちろん、統計的に厳密ではないのでたまたまかもしれませんが。この観察を上記の式で考えてみましょう。

chakuwiki によると、神戸ナンバーの登録台数は 133 万台徳島ナンバーの登録台数は 35 万台ということです。したがって、神戸ナンバー地区(以下話を簡略化するために神戸エリアとします。実際は明石なども含まれているのですけども)と徳島ナンバー地区(以下徳島エリア)における認知、魅力度、コストが変わらなければ、観光客数は 133 : 35、おおよそ 4 : 1 程度であるべきでしょう。

しかし、実際は 20 : 1 くらい。これはどういうことかというと、徳島エリアは淡路島に対する認知、魅力度、コストにおいて神戸エリアよりも 5 倍程度悪い結果になっていることを示唆しています。

ひとつずつ考えてみましょう。

まず認知度について。神戸エリアと徳島エリアで淡路島に対する認知に大きな差はあるのでしょうか。データを取っているわけではないのであくまでも仮説ですが、両エリアにおいて淡路島を知らない人というのは非常に限定的ではないかと思います。おそらく認知の広さという意味では両者に大きな差は存在していないのではないでしょうか。

一方で、認知の深さは神戸エリアに分がありそうです。淡路島は兵庫県に属していますので、関西ローカルメディアに属することになります。おそらく徳島エリアの人たちよりも神戸エリアの人たちのほうが、淡路島に関する情報に接する機会は多そうです。もしかすると、教育の影響もあるかもしれません。義務教育過程において自分たちの住む都道府県の勉強をしているはずです。そういったことが遠く影響している可能性はありそうです。

相対的な魅力度はどうでしょうか。こちらももしかすると神戸エリアのほうが強いかもしれません。淡路島に多く残されている自然資源は徳島エリアの人たちよりお神戸エリアの人たちの方が非日常感を味わうことができるでしょうし、淡路島の主要観光資源であるスポーツ・レクリエーション施設(平成 23 年度兵庫県観光客動態調査報告書参照)は、土地があまり残されていない神戸エリアの人たちにより受けそうです。あくまでも仮説でしかありませんが、淡路島の観光資源として現在前面に出ていることは、都会に住んでいる人たちをターゲットにしたものなのかもしれません。

最後にコストです。こちらはあまり変わらなさそうです。神戸から淡路島徳島から淡路島では大きな差は見られません。あくまで淡路島の中央部への時間ですが、むしろ徳島のほうが近いようです。厳密に考えると平均所得の差などから金銭コストに対して差を見出すことは可能ですが、おそらく大きなものではないように思います。もちろん、淡路島そのものが神戸ナンバーですので、多少の差は認識すべきでしょうけれども。

淡路島の観光戦略の可能性

さて、これらの仮説によると、淡路島は都会の住人をターゲットにした打ち出しを行っていておおよそうまくいっていると見ていいように思います。それでは、今後淡路島の観光客数をさらに増やしていくにはどのようなオプションがあるのでしょうか。

ひとつは、都会の人をターゲットにしつつ、そのエリアを神戸エリアから大阪エリア、もしくは姫路エリアへと拡大していくもの。もうひとつは、都会の人を取り込みつつ、コスト的に優位に立っている徳島エリアの人たちへと浸透していくオプションです。

前者のオプションでは、当然よりコスト面で不利なエリアへと進出していくことになります。したがって、認知か魅力度で勝たなければ競合観光地から観光客を奪ってくることはできません。そのためには淡路島の認知をいかに広げ深めていくのか、そして現在持っている資源をどのようにより魅力的に映し出すのかが課題となってくるでしょう。

後者のオプションでは、淡路島の観光資源を自然やスポーツなど、徳島エリアでも体験できるところからそうでない領域へと拡げていく必要があるでしょう。例えば冒頭で例に挙げた歴史など、徳島エリアにはないものを見つけ出し、そしてその認知を獲得していく必要があるでしょう。

ラフに淡路島の様子を想像してみましたが、皆さんの観光地においても同様の考察をすることで得られることは多いと思います。ぜひトライしてみてください。


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地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜

ポイント

  • 人口 × 認知度 × 相対的魅力度 × コスト のフレームワークで観光客を考え、どこが強くてどこが弱いのかを認識しましょう
  • エリアや生活者セグメンテーション別に比較することで、戦略も立てやすくなります