SWOT 分析なんてやめてしまえ、今すぐに(2015/3/25補足あり)

やや煽り気味のタイトルで中小企業診断士の先生方からはお叱りを受けそうですが、残念なことにあまりよろしくない使われ方をしているケースが多いため、言い切ってしまいます。SWOT 分析なんてやめてしまえ。それも今すぐに。

そもそも、地域活性化の成功事例とは? 【地域活性化用語集】


(地域活性化用語集、続々更新中です!今回は、「どのような状態」を地域活性化の成功事例とすべきなのか、ということについて論じてみました。)

SWOT 分析を簡単に説明すると、内部の資源を強み(Strength)と弱み(Weakness)にわけ、外部の環境を機会(Opportunity)と脅威(Threat)にわけ、2×2のマトリックスで戦略を立案するというもの。SWOT 分析の 2×2 マトリックスについて詳しく知りたい方は、英語になりますが Heinz Weihrich の The TOWS Matrix — A Tool for Situational Analysis (Journal of Long Range Planning, Vol. 15 Issue 2, 1982)という論文をオススメします。

なぜこれを通助で述べるのかというと、地域企業や地域ブランドこそ、SWOT を真っ先に捨て去らないといけないと考えたからです。

SWOT を捨てる理由その 1: そもそも強み、弱みは内部資源だけでは決定されない

強み、弱みを SWOT 分析では内部資源などと言われていますが、とんでもない。強みや弱みはあくまで相対的なものであって、他と比較しなければ意味がありません。そして、その比較の対象によって強み・弱みは流動的に変化するものです。したがって、強み・弱みを 1 枚のシートにまとめるなんて到底不可能です。

SWOT 分析をどうしてもやりたいのであれば、自社が戦うマーケットを精緻に定義してそのマーケットにおける競合を厳密に定めてから、競合との相対的な比較の上で強み・弱みの議論をするようにしましょう。

しかし、地域ブランドやニッチに戦う地域企業ではここに問題が発生します。

たとえばカニで有名な観光地、兵庫県の香住温泉を考えてみましょう。観光客に来てもらおうと考えた時、「競合」は誰でしょうか。カニの食べられるその他の観光地でしょうか。北海道も福井も島根も全部競合ですか? そもそも、カニ以外の観光地だって立派な競合です。もっというと、生活者のお財布レベルでは、旅行の競合はドラム式洗濯機かもしれません。そうなると洗濯機に対する強みの分析でしょうか。

また、ターゲットによっても変わってきます。関西圏の人をターゲットにする場合、北海道に対する強みは距離になるかもしれません。でもターゲットが東北の人だったらどうでしょうか。弱みですよね。

まずはこの点をはっきりとさせない限り、SWOT 分析に意味はありません。そして、結局のところ香住温泉の強み・弱みを 1 つの方向性に絞るなんて無理なんです。カニの食べられる他の観光地に対する強み、温泉の有名な観光地に対する強み、関西圏の観光地に対する強み、全部違います。そもそもそれを全部まとめて 1 つのマトリックスにまとめた時点で、そんなの何の意味もないシートになります。

つまり、戦略や目的によって強みが弱みにもなったり、その逆になったりするわけです。さあ、SWOT 表を完成させよう、とチームで集まって議論した時に、「ねぇ、これって強みかな、弱みかな」「よくわかんないよね」「とりあえず強みにいれとくね」という会話が繰り広げられたのを思い出しましたか。

これで失敗したのが香川県です。「1 万円さぬきうどん」の PR は成功だったのか、でも軽く触れましたが、香川県は立派な SWOT 分析を行っています

「1 万円さぬきうどん」の PR は成功だったのか

その中では、「うどん」は香川県の強みとして定義されています。これは一側面では正しい解釈でしょう。でもオリーブをアピールする場合、うどんは「うどんしかない」という弱みでしかなかったんです。このように、目的が異なれば強みも弱みも一から見なおさないといけないにも拘らず、一旦できた立派なマトリックス表を大事にしてしまうのでしょう。

ニッチなマーケットで勝負に出る地域ブランドにとって、マーケットを正しく定義することは本当に難しい作業になります。そもそもマーケットがまともに存在しないからニッチなわけです。そんなマーケットで戦おうと考えている企業や地域が、SWOT 分析をしても何の意味もないことがわかるかと思います。

さあ、今すぐ SWOT 表を捨ててください。

SWOT を捨てる理由その 2: 機会、脅威は未来の予測だが、実質不可能

機会や脅威は外部環境と言われていますが、上にも述べた通り強み・弱みだって外部に依存するわけです。正確に言えば、機会や脅威は未来の予測であって、強みや弱みは現状の分析です。

さて、みなさんは占い師でしょうか。どこまで正確に未来を語れますか。

これ、ぜーったい無理なんです。3 年前に東日本大震災のことが予測できましたか? リーマンショックはどうですか? 消費税増税は? スマートフォンの浸透はどうですか? Facebook の台頭は? 無理でしたよね。

結局、機会や脅威を椅子に座って想像しあっても当たらないんです。機会や脅威に対しては、どれだけ素早く現状から超近未来を予見して柔軟に対応できるのかという点に集中するべきであり、数年後の戦略を立てる際に未来のコトをマジメに議論するなんて時間の無駄です。どうせ当たらないんですから。そんな暇があれば、変化を俊敏に察知し、組織を柔軟に動かすことのできる体制を築くことのほうが大切です。

もしあなたがドラえもんと住んでいないなら、今すぐ SWOT 表を捨ててください。

SWOT 分析の正しい使い方

SWOT 分析は戦略を立てるために使うのではない、ということは延々語ってきました。では SWOT 分析はまったく使い道のない手法なのかと言われると、そんなことはありません、と少しだけ弁護しておきましょう。

SWOT 分析で戦略を立てようとするから失敗するのであって、SWOT マトリックスは戦略を立てたあとの確認に使えばまだ使い道があります。その際、それぞれの項目は重要なトラッキング項目(PDCA で Check されるべき項目)になるはずです。あくまで戦略のレビューツールとして使うのが、SWOT 分析のせめてもの使い道ではないかと思われます。

結論

SWOT 分析なんてやめてしまえ、今すぐに。

(2015/3/25 補足)
SWOT 分析を有効に活用するためには、自地域・自社の「戦略」が重要になってきます。戦略・・・つまり戦うフィールドを略すこと、戦わないフィールドをしっかりと決めた上で、自分たちの戦うフィールドに集中してはじめて SWOT 分析が意味を持ってきます。自分たちが戦うフィールドを決定する上では、ブランドのストーリーをしっかりと定義をした上で、そのストーリーを強化するためだけに動きまわることが重要でしょう。
ブランドストーリについては、こちらの記事をご覧いただければ、より理解していただけると思います。

地域ブランドにはストーリーが必要だといわれるが、そもそもストーリーってなんだろう?


(補足ここまで)

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本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

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ポイント

  • SWOT 分析で戦略を立てるべからず
  • どうしてもどうしてもどうしてもどうしてもどうしても SWOT 分析をしたいのであれば、戦略のレビューツールに留めておくべき