地域活性たからいち in 奈良 2013 を見てきました。日本各地の祭りを奈良に集め、その祭りにまつわるストーリーの紹介もあり非常に楽しめました。個人的には、阿波おどりがあんなに激しいなんて知らなかったです。やはり百聞は一見に如かずですね。このような機会は本当に貴重ですので、今後も続けていっていただきたいです。
さて、前置きはこれくらいにして。こういう地域活性系のイベントのご多分に漏れず、奈良公園には多くのテントが設営され、日本各地の名産品やグルメが集まっていました。メジャーとなった富士宮やきそばや八戸せんべい汁には行列ができていました。
そんな中、ひときわ上手に地域をアピールできていたのが福岡県でした。福岡県のブースでは、県内の特産品を使用したジェラートが売られていました。その数 21 種類。残念ながら優勝は逃したようですが、地域の活性という観点で考えると福岡県がもっとも効果があったはずです。そのポイントを見ていきます。
興味があることを通じた地域アピール
多くのブースで、その土地の名産品やイベントをついでにアピールしていましたが、これはあまり効果を期待できません。なぜなら、元も子もない言い方になりますが、基本的に来訪者はその地域に対して興味がないからです。
なぜ来訪者は、そのブースに来ているのか。そのいちばんの理由は、そこで売られている食べ物に興味を持ったからです。そういう人に、近い将来開催されるスポーツイベントのチラシを配布したところで、「不要な情報」でしかありません。せっかくブースまで足を運んでもらっても、そこから地域のアピールにつなげるための連続性に欠けているアピールばかりだったのは、非常にもったいなく感じました。
その点、福岡県は上手にやっていました。21 種類のジェラート。なかなか即決できる人はいません。10 月とは思えないほどの暑さというラッキーもあったかと思いますが、何を食べようかと迷う楽しさを通じて福岡の特産品に触れさせることができるのです。つまり、ブースに訪れる理由と地域のアピールが密接に絡み合い、相乗効果を生んでいる仕掛けができあがっています。
来訪者は本来の目的を達成する過程において、無意識のうちに福岡県の魅力に接します。これは、何かを食べにブースに言ったのに全く関係ない地域のイベントの宣伝をされるのと比べて、格段に地域の魅力が伝わっていることは想像に難くないでしょう。
完全には満たされないフラストレーション
ご当地グルメを遠隔地で試させる際の課題のひとつとして、その場の満足で終わらせないように留意する必要がある、という点があります。たとえば、富士宮やきそばを奈良で食べて、「あー美味しかった」で終わってしまうと経済効果は 500 円にすぎません。富士宮やきそばを通じて、その先にある、富士宮を訪れてみたい、富士宮のことをもっと知りたい、という欲求をどのように喚起するのかが腕の見せ所です。いかにして継続的に富士宮にお金を落としてもらうか、それができなければ一過性のブームで終わってしまうリスクを孕んでいるところが、ご当地グルメの難しいところです。
その点、福岡県のジェラートは、欲求がその場で完結しないという点において上手だなと感じました。21 種類のジェラートをすべてその場で食べることは不可能です。また、素材の味を認識した消費者の中には、今度は別形態の食べ方にも興味をもつ人も出てくるでしょう。でもその場で食べられるのはジェラートだけなんです。次のステップへの欲求は満たされません。
ご当地グルメは取っ掛かりとしては非常に優れています。それを単なる物販で終わらせないために次への誘導をプランにいれた活動が要求されます。福岡県はこの点においても他の地方のブースにはないマーケティングができていたと思います。
「売り物」そのもののアピールをしない
福岡県のブースでは、その材料が福岡県内各地の特産品であることやジェラート自体も福岡県の牛乳を使用していることなどを集中的にアピールしていました。「ご当地グルメは目的か手段か」でも触れていますが、物販が目的化してしまい地域の特長やストーリーを伝達することなく、ただただ食べ物を売っているだけのブースが非常に多かったのに対し、福岡県のブースではジェラートのアピールではなく、県の特産品の豊富さやおいしさをジェラートというモノを媒介として伝えていました。
これによって、来訪者はジェラートそのものに加えて、特産品のバラエティの豊富さもしっかりと記憶できます。
*
まとめると、福岡県のブースは、一貫したマーケティングメッセージを持ち、かつそれを消費者の興味に沿った形で提供できていた(ほぼ)唯一のブースだったのではないかと思います。誰に、何を、どのようにアピールするのかというのはマーケティングにおいて基本中の基本ですが、それをしっかりとおさえられていた福岡県に拍手。
本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
ポイント
- 興味があることを通じて、伝えたいことを伝達すべし。そのためにどういうマーケティングプランを立てられるのか、しっかりと考えましょう。
- 地域活性系イベントでは、その場で満足させてはいけません。心地よいフラストレーションを残すことが、地域活性への第一歩となります。
- モノを売るな、コトを売れ、というのは企業のマーケティングだけではなく地域のマーケティングにおいてもかなり重要です。どんな「コト」を売れるのか、考えましょう。