地方創生の旗印のもと、地方部・都市部を問わず、全国の大学においてフィールドワークを交えつつ、地域の問題を解決しうるような人材を育てることを目的とする「地域系・観光系学部」の設立が相次いでいます。また、産官学連携が文系分野においても積極的に推し進められつつある中で、大学と自治体が地域活性化に関する協定を結ぶ事例も数多く見られるようになってきました。
このような背景もあり、防災計画の立案、コミュニティ振興、そして地域活性化などの分野において、大学生が企画立案に携わることが増えています。実際に地域活性化ニュースでは、そのような経緯によって大学生が商品開発した商品や観光プランについて何度かニュースとして取り上げてきました(地域活性化ニュース:「大学生」に関する過去記事[地域活性化ニュースは、毎日地域活性化に関する情報をお届けしています!])。
そんな中で、地域において大学生と一緒に商品開発を行ったものの多くが大きな効果をあげているかと言われると、必ずしもそうではないように感じています。では、共同作業を行っていく大学生に対してどのようなサポートを行えば、地域活性化の成功につなげることができるのでしょうか。
以下では、大学生(ここでは特に芸術や設計を専攻している訳ではない、文系の大学生を指します)との連帯に際して、「どうすれば大学生との共同作業を地域活性化に結びつけることができるか」について3つの視点から論じていきたいと思います。(逆にいうと、大学生が読んでも地域活性化に携わる際に意識すべきこととして読むことができると思います。)
「よそ者、若者、ばか者」論は、字面通りに捉えない
大学生による地域活性化への参与は非常に価値があるものとして扱われる傾向にあります。それは、地域活性化業界における格言として、「よそ者、若者、ばか者が地域活性化の成功には必要である」というものがあること、そしてこの言葉に大学生が全て合致していると考えられていることが理由のひとつでしょう。
私は以前、この言葉を「奇抜な発言/発想をしてくれる人が必要だ」、という意味合いで利用している場面に遭遇したことがあります。しかしもちろん「奇抜なアイデアを出す人がいる→地域活性化に成功する」という因果関係がある、あるいは、「他所から来たこと/馬鹿なこと/若いこと」そのものが重要であるということではありません。
この言葉は、
- 地域の規則やしがらみに縛られないけれども、それを尊重できる人材
- 異なったライフステージにあることや異なった人生をおくってきたことによる視点、あるいは市場の視点を用いて、地域資源の価値を発見することができる人材
- 成功のために、明るく、自信をもってひたむきに努力していくことができる人材
が地域活性化の成功を考える上で重要である、という意味で理解すべきであると思います。こういった意味で、その土地でずっと暮らしていても、歳をとっていても、賢くても(!?)、「よそ者、若者、ばか者」であり続けることは重要であると思います。
市場の視点を補ってあげる
このように「よそ者、若者、ばか者」という言葉を捉えてみたときに、大学生はどのような特徴を持つ人びとだとすることができるでしょうか。「地域をなんとかしたい!」と考えるやる気のある大学生は、「しがらみに縛られない自由さ」、「地域の人のいうことを素直に聞く若さ」、「若くて・その土地出身でない人ならではの視点」、「ひたむきに取り組む姿勢」を持ち合わせています。素晴らしいことだと思います。
その一方で「市場の視点」、「ビジネスの視点」ということに関しては、得意な分野ではありません。これは、地域活性化に興味がある学生は、「地域政策」、「行政法」、「コミュニティ研究」、「地域社会学」、「都市政策学」などの分野を専攻していることが多いことに起因します。
地域活性化に「市場の視点」が極めて重要であることは、通助で重ね重ね触れているテーマのひとつです。(例えばこちらの記事をご覧ください。「地域活性化は競争だ 」)例えば、大学生とコラボレーションして行われる商品開発を事例にしてみましょう。それらの中では、若者に対して売れるものをつくることを想定して、見た目や素材、観光プランであれば訪れる場所に様々な工夫がなされているものが見受けられます。
しかし、本当に作成者が自分のお金を出して、あるいは、余暇を利用してその商品/プランを購入するか、という部分を詰めて考えてみると、疑問が残るものも少なくないように感じています。(大企業の知見と、恐ろしい金額を投入しても、必ず成功するとはいえないのですから。大学生による商品開発も、それらと同じ土俵で勝負しなければならないということです。)実際、地域活性化の現場において、「授業が終わったあとは来てくれない」、「自分のお金で来て欲しい」、といった声を耳にすることがあります。その原因のひとつとして「作ること自体が目的化してしまう」ことで、市場(そして自分たち)」が本当に買いたいと思うものなのか」という部分に目が行かなくなってしまっていることが挙げられるでしょう。その結果、「観光プラン/商品開発することが目的になってしまい、実際にそれを利用して地域に資金を流入させる」ことを意識することがおろそかになってしまいがちです。
それを避けるためには、市場の視点を意識させるように質問を投げかけていくことが重要だと思います。
- 「これ、みんな◯◯円払って買う?本当に来たいと思う?」
- 「みんなが、友達/恋人/家族とここにお金を払って来たいと思う地域にするには何があればいいと思う?」
- 「サークルの合宿をこの場所にするには、みんなの説得のためには何が必要?」
こういった質問を投げかけることによって、自分が「本当に金を払って、ここに来たいか?」ということを本気で考えてもらえるきっかけとなると思います。
若者が本当にターゲットなのか考えなおす
そもそも、ありとあらゆる土地で「大学生に来てもらい、若者から見た魅力をプラン・商品化して発信すること」は望ましいことなのでしょうか?自然・歴史遺産に強みを持つ自治体にとっては、若者よりも高齢者にとっての魅力の方が大きいことの方が十分に考えられます。日本の人口構成から見ても、若者よりも高齢者の方が多いです。同様に、可処分所得、余暇、消費の傾向、などから見ても、高齢者の方が地方部に来てくれる可能性が高いことが十分に考えられます。商品開発でも同じことで、地域の良いものを使って作った、大量生産商品よりも値段が高い商品に大きな価値を見出し、大学生が積極的に購入するということは必ずしも多くないように思えます。
地域の人びととお話するなかで、「若者が来てくれるような地域を目指したい」というお話を伺うことがよくあります。しかし、「来て欲しい」という思いと、「その対象がこの土地に価値を感じ、訪れてくれるか」という事実はまた別です。所有する地域資源の特徴をよく考え、「その魅力を誰に向けて発信することが土地の価値を最大化しうるのか」を考える必要があるでしょう。
それでも若者をターゲットにしたい、と考える場合は、より細かいターゲティングを行う必要があるといえるでしょう。ほとんど意味を持たないセグメンテーションである、「若者」というくくりで若者を語らずに、「現在のライフステージは社会人◯年目で、◯◯に興味があり、◯◯な余暇を過ごしたいと考えている女性」といったように細分化してその誘客・消費ということを考える必要があるということです。いずれにせよ、「若者」をターゲットにすることがどの地域においても、そしてどのような環境においても常に適しているということは全くできません。
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本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
ポイント
- 「よそ者、若者、ばか者」論を字面通りに受け止めることはやめましょう。
- 大学生には、市場の目線を意識させる質問を行っていきましょう。
- そもそもその地域は若者に魅力がある地域なのか、そこから考えてみましょう。