クラフトビールのマーケティングにおける特殊性

近頃大手メーカーがクラフトビール業界に参入の動きを続々と見せていますが、大手がクラフトビール業界に関心を示すのも当然のことでしょう。なぜなら、クラフトビールの市場は年々大きくなっているからです。今年は全国で118件ものビアフェスが開催されていますし、国税庁の調べではここ5年で約36.5%売り上げが増えています。この動きの中で、大手メーカーもクラフトビール業界に参入の動きを見せ始めました。大手の参入の方法としては①買収②業務提携③自社製造が挙げられます。また大手メーカーが参入することの強みとして、自社の持つふんだんな販売チャネルを挙げることができます。しかし、その参入の際には必ず二つのマーケットの特異性を考慮する必要があります。なぜなら、大手メーカーが戦う市場とクラフトビールの市場では異なる特徴があるからです。どのような戦略を持って参入していくかで大きく明暗が分かれていくことが想定されます。

大手メーカーが戦う市場とクラフトビールにおける市場は同じビール業界であっても異なっています。大手の市場では「とりあえずビール」という言葉に象徴されるように一般ウケする美味しさが求められているといえるでしょう。味へのこだわりは当然大切ですが、ビールに対してコミュニケーションツールとしての側面が求められているため、万人ウケする味を目指す必要があります。

それに対して、クラフトビールの市場には「好き嫌い、当たり外れがあって当然」という前提が存在しています。ビールには大手に代表されるスタイルの他に100を超える種類があり、同じスタイルでも作り手によって味は大きく異なっています。人の好みもそれぞれであるため自分に合うビールを探す楽みがある反面、その過程で苦手なビールにも出会うことになります。その点で大手がシェアを争う市場とは一線を画しているといえるでしょう。また飲みやすさは当然であるが、クラフトビールの購入者は個性やある程度のトゲを望んでいるため、万人ウケするものであれば埋没して行きかねません。

個性の他に、クラフトビールに求めるものとして情緒面が挙げられます。工場ではなく地域の鋳造所で作られているが故に作り手を身近に感じられるという情緒的な面はその味と共に魅力の一つだといえます。その為に大手が参入する場合は”万人ウケは望めない”という認識に加えて、その”情緒”的な部分を人工的に作り出すことが成功の一要因となってくるでしょう。

その点を踏まえるとキリンが打ち出したSpring Valley Breweryは人工的に情緒面を作り出すことに成功していると言えます。まず、一目で従来のキリンビールと異なるという点が感じられ、またボトルデザインがワインのラベルのようで異国情緒が溢れています。またHPなどで全面的に作り手の顔を出してこだわりを語らせる面で、作り手との距離やこだわるが故に好みが分かれかねないという点をフォローしていると言えます。 
ビールの売れ行きはその味次第と言ってしまえば元も子もないが、その味も飲み手の期待にどれだけ添い、またいい意味で裏切れるかにかかっているため、その部分の土俵作りが大手が参入する際に重要となってくると思います。


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ポイント

  • 現在ニッチである市場に参入する場合、そのニッチさが価値を生んでいる場合があるため上手く取り入れる必要があります
  • 顧客の判断する美味しさの基準をどこに定めさせるかを作り手側が意識的に作り出す必要があります