一貫したブランド作りストーリー(株式会社大上鞄店)

今回は株式会社大上鞄店(以下大上鞄店)、代表取締役大上好子氏、専務取締役大上悠介氏、取締役大上俊介氏にお話を伺いました。

大上鞄店
1946年に大上福太郎氏が、前身である大岩鞄店・大岩商会を引きつぎ、神戸元町の地で創業。 革製品を主に、豊富な品揃えで上質な製品が取り揃えられています。2009年にはボストンバッグ 「元 2004」が神戸セレクションに認定されるなど、小売だけでなくオリジナルブランド製品の製造もしています。
http://kobe-ohue.com

ボストンバッグ

「接客」を通じて、上手な双方向の情報のやり取り

―接客において大切にされているポイントはありますか?

「語弊を恐れずに申し上げると、お客様のタイプによって接客方法を変えています。最近の若いお客様は、最初からお声をかけると嫌がられる方もいらっしゃるのでタイミングを見計らいますし、 英語の通じない外国の方には筆談などで積極的にコミュニケーションをとるようにしています。 プレゼント用に購入されるお客様がいらっしゃれば、プレゼントを受け取る方が普段どんなものを身に着けておられるかなど丁寧にヒアリングし、より納得してプレゼントを購入していただけるよう努力しています」と大上俊介氏。

大上鞄店では来店時の接客だけでなく、修理・メンテナンスなどアフターサービスにも力を入れています。大上鞄店には、革製品の鞄を初めて使われるお客様も多く来店するということですが、商品の専門的な知識を丁寧に説明するなど、来店客1人1人に丁寧な対応をすることで、「大上鞄店」への信頼と安心を購入客に与えているのではないでしょうか。 大上鞄店の接客の強みは、来店客に知識を伝えるというだけに留まりません。来店されているお客からも、実際に使用している鞄のメリットやデメリットを聞き取り、商品開発にも活かしています。「接客」を通じて、来店客と店員との双方向の情報のやり取りが上手にされていることがよく分かります。

トランクと人

オリジナルブランドの立ち上げ

―なぜオリジナルブランドを立ち上げようと思われたのですか?

「もともと創業時から長くトランクケースや各種鞄を製造していたのですが、阪神大震災が起こったともあり、長らく製造を停止していました。製造を始めたのも、やはり弊社が抱いている、鞄にたいする価値観を具体化したいという想いからです。長い間、数えきれない多種多様な鞄を見てきたなかで、やはり自分たちの手で作りたいという気持ちが出てきました。そして2004年に、ここ元町商店街130周年イベントをきっかけに、ボストンバッグを作りだしました」と大上好子氏。

―オリジナルブランドを製作するにあたって、どんなブランドイメージを意識したのでしょうか。

「 “美しい鞄をつくりたい”という、“大上鞄店”としてのデザインポリシーを反映させるようにしました。加えて、ボストンバッグでは、重厚感があり、クラシックなデザインになるよう、何度も鞄職人と打ち合わせを重ねました」と大上悠介氏。

クラシックなデザインを訴求ポイントにできるということは、これまでの小売販売おいて丁寧な接客やアフターサービスによりすでに出来上がっていた、「大上鞄店」自体のブランド力があったからこそだと思います。ボストンバッグの販売は、2,3ヶ月で第1弾が完売するなど好調なスタートを切りましたが、その成功は、ゴルフ雑誌に商品が取り上げられたというだけではありません。「大上鞄店」がこれまで小売販売で築き上げてきた「高級感」という“販売店舗”のブランド力を、オリジナルブランドの“商品”へ効果的にリンクさせているからではないでしょうか。それと同時に、オリジナルブランドが形成している「重厚感ある」ブランドイメージが、「大上鞄店」(販売店舗)のブランド形成にも繋がり、相乗効果的に良い影響を与えているのでしょう。

―オリジナルブランド商品を購入される方は、どんな人が多いのでしょうか?

「特に値段を気にされない方や、製造すると決まった段階で、実際にまだ値段や商品を見ていないのに購入を決定される方もいらっしゃいます」と大上悠介氏。さらに、「みんなと同じものを持っているものは嫌だ、特別なものを持ちたいという考えを持っておられる方も多いですね」と大上俊介氏は語っています。

お話から、オリジナルブランドを持つということ自体、ステータスになると考えている方がたくさんいるということが想定できます。それは、商品の機能としての魅力だけでなく、「大上鞄店」への絶大な信頼があるからこそではないかと思います。 単純に鞄という“モノ”のみを買いに来られているのなら大上鞄店でなくてもよいはずです。 商品という“モノ”の魅力だけではなく、大上鞄店の商品なら大丈夫であろうという信頼感や安心感や、持っているだけで得られるステータスといった“コト”(=提供されている価値)の魅力も、顧客は同時に求めて訪れているのでしょう。出張中に店舗に立ち寄った方が、プライベートな旅行の際に再び訪れるということもあるのだとか。大上鞄店が提供している価値をプロダクトや接客で感じ取った方が、また来たいという心理になり、リピーターとして帰ってきてくれるのでしょう。
“コト”を売ること、に関してはこちらの記事で詳しく解説しております。

モノ売りからコト売りへ ~長期顧客を獲得したければ、感情的インセンティブを刺激すべし。

最近ブランドHPを新たに製作された同社。「大上ブランドという自分たちの価値観を体系化して発信したい」と大上俊介氏は語っています。「良い商品を作れば必ず売れる」という時代は終わりました。お客様のニーズをきちんと捉え、プロダクトに落とした後、丁寧な接客で大上ブランドをさらに向上させ、そしてHPで伝えたい情報を発信し、顧客に知ってもらうことが今後ますます大切になるのでしょう。HP作りも大上鞄店のブランドを強化していくための重要なツールになるのだと感じました。

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インタビューを終えて

「将来のアンティークを作りたいんです」という大上俊介氏のお話がとても印象的でした。 「クラシックな鞄のデザインは、時間が経過した今見ても美しいと思います。だからこそ、普遍的な美しさを保つような商品作りを心がけている」そうです。大上鞄店には、「普遍的な美しさ」というデザインポリシーのほかに、「愛着が詰まっていく鞄」というものがあります。親子2代で愛用される方々がいるのも、そんなデザインポリシーが顧客に浸透しているからなのではないかと思いました。


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜