食育を通して、ファンを作る(有限会社六甲味噌製造所)

インタビューにお伺いしたのは、有限会社六甲味噌製造所(以下、「六甲味噌」)代表取締役の長谷川憲司様です。工場見学も社長自らご丁寧に説明していただきました。

有限会社六甲味噌製造所
大正7年創業。味噌の製造販売を行っています。生味噌を始めとして、山椒味噌、味噌せんべいなど新しい商品も次々と考案されています。
http://www.rokkomiso.co.jp

味噌市場自体が縮小傾向のなか、「どんな風に皆さんに味覚を知って使ってもらうかが課題です」と語る代表の長谷川氏。同社が取り組むプロモーション活動について紹介します。

体験活動を通して、ファンを作る

六甲味噌では、50代以上が中心に参加する教室と、親子で味噌作りを体験できる教室と2種類の味噌作り教室を定期的に実施しています。体験教室にて社長自らがお味噌について丁寧に話すことで、お味噌の魅力に気づいてもらい、商品の購入に繋げています。

—御社では、工場見学や味噌作り教室等本当に様々な活動をされていますよね。どのような理由があるのでしょうか。

「(六甲味噌の)ファンになってくれるからです」と、代表の長谷川氏は断言しています。

「味噌体験教室に参加された人は、ほとんどの方が六甲味噌を購入してくれるようになるんです。ご好評いただいていて、7,8割がリピーターなんですよ」と、長谷川氏。なかには、東京に転勤となってしまった人も味噌教室に参加するためにわざわざ東京から来る人もいるそうです。

「体験教室後、お味噌の消費量が倍になったというご家庭もあるんです。美味しいから、子どももおかわりするようになった、という声も聞きます」と、長谷川氏は顔をほころばせながら語っています。

体験教室を通してファンになった方たちは、体験後も永続的に六甲味噌を選んで購入してくれるようになり、非常に強いロイヤルティを持った購入者層を獲得していることに繋がっていると言えるでしょう。

同時に、体験教室を通して同社の商品を子どものころから口にする機会を増やすことで、潜在的な購入者をも取り込んでいるのではと思います。

「お味噌は、地域の風土によって大きく味が異なるんです」と話す長谷川氏。子供のころからその土地の風土に合ったお味噌汁を飲むことで、「我が家のお味噌汁の味」が大人になっても受け継がれていくのではないでしょうか。

体験教室を始めとした普及活動は、長い目で見ていくと非常に効果があるものの、「時間と労力が本当にかかるんですよ」と話します。

「20年間かけて体験教室を実施し、ようやく600人まで(購買者の)裾野を広げることができるようになったんです」と長谷川氏はその苦労について語っています。

お味噌を通して、食育を

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—体験教室に来る参加者は、どんな目的で来られるのでしょうか?

「若い奥さんは、子どもの食生活に危機感をもっておられる方が多いですね。今の食生活は、子どもにとって果たしていいのだろうかということをきちんと考えている方たちです」と長谷川氏は答えています。

子どもの食生活に関心を寄せられている若いお母さんに対して、体験教室で長谷川氏から伝えているメッセージがあります。

「小さいときから、ちゃんとしたものを、ちゃんとした形で、ちゃんとした時間に、家族みんなで食べることが大事だと思うんです」と長谷川氏は強く語っています。

「普段はジャンクフードだとかインスタントで済ませてしまい、ちょっと特別なときに豪華なものを食べに行こうというのでは、子どもにとって良くないと思うんですよね。一時的に豪華な食事を与えさせて誤魔化さず、手を抜かずに毎日きちんとしたものを子どもにも食べさせてあげないと、健康に育たないですし味覚もダメになってしまう」と話しています。同社のお味噌は、スーパーで売られているメジャーなお味噌よりも少し割高ではありますが、原料にもこだわり、生活しているこの土地の気候風土に合った手作りの安心安全なお味噌なので、健康にも良いといいます。

長谷川氏の話を聞いていると、お味噌を通して、きちんとした食生活を毎日食べることの重要性について伝えていきたい、という想いがよく伝わります。

「お味噌の体験教室をすると、参加者の皆さんは大変熱心に味覚に関する話を聞いてくださいます」と長谷川氏は話しています。

親子で参加する体験教室は、その体験内容だけでなく、「親子で体験できる」ということ自体人気の一つなのではと思いますが、ただ親子で体験できる場を提供するだけで、参加者が永続的に商品を購入してくれるファンになることは難しいでしょう。

同社では、販売に繋げるという目的のためだけに、お味噌の魅力や自社の商品を単純に紹介するわけではありません。

「◯◯産地だけの野菜しか取り寄せない、というように極端に何かこだわりを持つ必要はなく、毎日の食材に少し気を使ってあげ、一手間かけてあげることが重要なんです」と訴えています。そうすることで、「食生活をもう一度見直そう。健康に良い六甲味噌でお味噌汁をきちんと子どもに作ってあげたい」と、子どもの食生活に不安を感じているお母さんたちが納得できるからこそ、「六甲味噌」のファンは着実に増えているのではないでしょうか。

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インタビューを終えて

同社だけでなく、広告や宣伝に多額の投資ができない企業は少なくないでしょう。CMを1本出すだけで、億単位のお金が動きます。同社では、金銭的な資源が限られているなかでも、いかにコストを抑えられるか、工夫を繰り返しています。

お話を聞いていると、同社の各方面へのネットワークの広さに先ず驚きました。

プレスリリースを頻繁に出すだけでなく、新商品の味噌の味を伝えるためにサンプルを付けるなど工夫を凝らすことで、記者の方とのコネクションも確立していましたし、体験教室にいたっては、自らアプローチせずとも、ホテルや地域コミュニティから依頼をされて開催するまでになっています。

長谷川氏が言うように、同社では数億円規模でCMや広告を打つことで消費者を短期間で一気に取り込むことはできません。しかし長い目で見れば、社長による「食育」の地道な普及活動によって、「六甲味噌じゃなきゃダメ」というブランド・ロイヤルティの高いファンを着実に増やし続けているという効果があるのは事実です。

どんな関心を持っている人に、どんなメッセージを伝えることで商品の魅力十分に理解してもらえるか。そういった視点でプロモーションを続けることの重要性を改めて感じました。


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