スズヒロ〜豊かな自然を生かしてコト売りするシェアハウス〜

静岡県浜松市では現在リノベーションによるまちづくりが進行しています。

今回の「行ってきました」では、浜松市内でも特に「地域性」という視点において、高い評価を得るリノベーション物件

「365BASE」を運営するスズヒロを紹介します。

今回インタビューに答えてくれたのは、スズヒロの代表取締役であり、「365BASE」のオーナーでもある古橋啓稔さんです。

365BASEを運営する古橋さん

365BASEを運営する古橋さん

コンセプトを徹底的に落とし込み、物件のアイデンティティを確立

「365BASE」とはどのような物件ですか?

「365BASEは元々企業社宅だった建物をリノベーションし、『アウトドア好きが集まる秘密基地』をコンセプトに、シェアハウスとして改修したものです。私がこのようなコンセプトを打ち出したのは、浜名湖をはじめとした、浜松の豊かな自然をより多くの人に楽しんでもらいたいと思ったからです。」

遠鉄電車「新浜松駅」から電車で6分。「助信駅」から徒歩5分の場所に佇む、「365BASE」を訪れると、「アウトドア好きが集まる秘密基地」というコンセプトがいかに詳細に建物へ落とし込まれているかが分かります。
まず、目を引くのは、エントランスの前に立つ大きなテントです。よくマンションなどでアート作品のようなオブジェを見かけることがありますが、オブジェが果たす役割は、せいぜい「高級感を演出する」程度のもので、特に建物そのものを特徴づけるといった効果はありません。一方、「テント」を見れば、大体の人がその先に「アウトドア」を連想するという点において、「365BASE」におけるテントは 、建物の顔となるエントランス前に設置するにふさわしい、よりシンボリックなオブジェであるといえます。

コンセプトを象徴するテント

コンセプトを象徴するテント

建物の内部ものぞいてみましょう。

共用部である廊下には、カヌーと大きな浜松の地図が並び、窓から見える小さな中庭には、ボルタリング設置されています。さらに、共用のリビングルームには、ハンモックなどさまざまなアウトドアグッズが専門店さながらに並んでいます。圧巻なのはリビングから続く外庭で、大人数でバーベキューが出来るほどに敷地が広く、庭に沿って流れる小川や川辺に植樹された木々が、まさに「自然豊かなまち、浜松」を体感させてくれます。

中庭にはボルダリング

中庭にはボルダリング


アウトドアショップさながらのリビング

アウトドアショップさながらのリビング

「先週もここでお花見をしました。シェアハウスの入居者だけでなく、入居者の友人や近隣の方など、本当にたくさんの人がここに集まってくれて、たくさんの交流が生まれました。365BASEのある助信駅周辺は、浜松市の中でも、決して人気スポットではありません。しかし、庭から眺める桜並木といった、ほんの些細な要素であっても、それはまちにとっての資源であり、こうして人を集める力があると考えています」

通助で、以前観光客向けの「コト売り」についての記事を執筆しました。こちらもどうぞご覧下さい。

モノ売りからコト売りへ ~長期顧客を獲得したければ、感情的インセンティブを刺激すべし。

現在「コト売り」が重要なのは、観光客向けのビジネスだけではありません。例えば今回の不動産業の場合、築年数や家賃、駅から徒歩何分といった物件の基本情報(モノ売り)だけではなかなか、住み手が見つかりません。「その物件どんな家」ではなく、「この物件でこんな暮らしができます」という「コト売り」の提案をしなくてはなりません。
365BASEが、アウトドアをコンセプトにしたシェアハウスであることに着眼すると、庭でのお花見企画は、とてもいい取り組みであるといえるでしょう。

浜松という自然豊かな場所でたくさんの仲間に囲まれてワイワイ暮らすという場面が想像できますよね。しかも、「自然豊かな場所でたくさんの仲間に囲まれて、ワイワイ暮らす」というのが、ここ365BASEでしか体験できないものだのすると、これは、立派なコト売りとして成立するわけです。

お花見が行われた外庭

お花見が行われた外庭

1番に選んでくれる人を見つけるためのウェブ戦略

365BASEの入居者はどのような層が多いですか?

「365BASEでは、これから一人暮らしを始める人をターゲットにしています。実は浜松は、進学や就職を機に家を出る人もいるのですが、そのほとんどが実家暮らしを継続しています。しかも、実家を出た人たちは浜松に留まるのではなく首都圏へと流出していきます。決して賃貸物件が少ないという訳ではないのですが、「わざわざ家を出なくても」と考えるようです。そこで私は、「実家の外にもワクワクする場所がある」というメッセージが伝わるような集客の仕方を心がけています。」

具体的にはどのような工夫をされていますか?

「シェアハウスの入居者の特徴の1つとして、シェアハウス間の住み替えが多いことが挙げられます。そのため、シェアハウスに特化したポータルサイトで入居者を募るパターンが多いのですが、私がターゲットとする「初めての一人暮らし」層は、よほど関心がない限りそのポータルサイトには行き着きません。そこで役立つのが、自社サイト「365LIFE」
http://365life-realestate.comです。

365LIFEでは365BASEのほかに、リノベーションやデザイナーズの物件など浜松市内では比較的な洗練されたデザイン性を持つ物件をセレクトして、スタイリッシュに掲載するように心がけています。そうすることで、まず、「初めての一人暮らしだけど人よりちょっとオシャレな部屋に住みたい」という考えを持つ人たちをサイトに集めることができます。

さらにこのサイト内では、「物件の形態」や「立地」、「築年数」といった一般的なカテゴリー区分よりも、「どんな風に暮らしたいか」というライフスタイルによる区分を優先させることが可能です。例えば、365BASEの場合、「アウトドア」というカテゴリーに分類されるのですが、サイトの利用者がサイト内の「アウトドア」のタグをクリックするか、検索時にチェックを入れるかすることで、パソコンやスマートフォンの画面上に、ワンルーム物件の情報と混ざって、シェアハウスの物件情報を表示することができます。ここまでくれば、入居者の部屋探しにおける「オシャレな部屋に住みたい」「アウトドアを楽しむ生活が送りたい」という二つの嗜好を叶えているので、たとえシェアハウスであったとしても、有力な入居先の一つとして、部屋探しをする人の選択肢に割り込むことが可能です。

以前、本サイトの運営会社である株式会社ホジョセンのコラムで「2位じゃダメなんでしょうか?」という記事を掲載しました。

そこでは、「みんなにとっての2位よりも、誰かの1位になるべき」との結論下しました。

さて、365BASEの場合ですが、誰かの1位を目指して作られた物件というより、先にとんがった物件を作っておいて、このとんがった物件が限りなく1位になりうる人物を探し出すためのツールとして365LIFEがあるように思います。ターゲットから完成品、完成品からターゲット、アプローチの仕方は異なれども、特定の誰かの心にずしりと響かせるマーケティングの戦略が、いかなる商品・サービスに置いても非常に重要であるといえます。

入居者とまちを繋げて循環力を強化

「地域活性」という側面で非常に高い評価を受けているとお伺いしましたが、具体的にどの部分が評価されていると思いますか?

シェアハウスの魅力としてよくあげられるのは、「賃料の安さ」や「引っ越しの手軽さ」といったものですが、私は何より「人と人の繋がり」ではないかと思います。
シェアハウスと聞くと、まず咄嗟に入居者間のコミュニティを思い描く人が多いと思いますが、決してそれだけではありません。入居者の周り、大家である私の周り、そして建物が所在するまちの中には、たくさんの人が存在します。365BASEはこのたくさんの人を繋ぐ場所として、地域に貢献できていると考えます。

どのように人と人が繋がるのですか?
手法は様々だと思います。
私の場合は、先述のお花見も含め年に2回ほど大きなイベントを開催するようにしていますが、特に、年がら年中催し事を考えないといけないというわけではありません。ここの場合、大小合わせると様々なイベントがある方ですが、それらのほとんどを入居者が主体となり自分たちがやりたいことを開催しています。さらに、ここでは、「住む」以外にも地元の事業者が「働く」場所としての貸し出しを行っています。現在は、ネイルサロンや、ベリーダンス教室などが入っており、ベリーダンス教室に入居者が参加することもあります。
以前に通助のコラムで、「イベントの成功=地域活性化の実現ではありません」
というお話をさせていただいたことがあります。地域が活性化したというには、お金を地域の外から稼ぐ(移出力)か、お金を地域内で循環させ、地域外へ流出することを防ぐこと(循環力)が必要です。
365BASEの場合は、花見などのイベントを通じて入居者を獲得していることはもとより、地元事業主がイベントの参加者と触れ合うことで、顧客を獲得できたり、会社のPRをSNSなどで友達に拡散してもらえるといった効果が期待できます。これは、まさに地域活性化における循環力です。

〜インタビューを終えて〜

浜松の人と話をしていると、起業家が少ないことを懸念する声をよく聞きます。その理由として挙げられるのは、浜松市内の雇用には工場勤務など労働集約型が多いことです。大企業がないわけではないのですが、「こんなことがしたい」と夢を持った若者たちは、やりがいのある仕事を求めて首都圏へと飛び出すそうです。
地元の事業者に場所を与えるという365BASEの取り組みは、こうした課題を打開する一つの解決策にはなるのではないでしょうか。実際に事業を行う人と触れ合うことで、「たとえ大きくなくても、いつか浜松で自分の会社を持ちたい」という若者が現れるきっかけになるかもしれません。古橋さん自身も、現在仲間とともに、リノベーションの施工会社と、物件のリノベーションを希望者する潜在的消費者とのマッチングを行う新規事業の立ち上げに向けて準備を進める真最中です。浜松で生き生きと働く事業者たちの背中を浜松に住む若者たちに示すことができれば、浜松のまちが変わるかもしれません。


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜