神戸の地酒「福寿」、ライバルはワイン(株式会社神戸酒心館)

地域企業へのインタビュー、記念すべき第1回目は「株式会社神戸酒心館」にお邪魔しました。インタビューに答えていただいたのは、営業推進部部長の坂井和広氏です。

同社では、「地産地消」「量より質」という観点で、狙いたい消費者ターゲットに対して、多様なアプローチを試みていました。日本酒業界で、非常に新しい取り組みをしている同社のお話を紹介したいと思います。

株式会社神戸酒心館紹介

創業1751年。生産量を追わず、手造りによる酒造りを行っています。「福寿 純米吟醸」はノーベル賞受賞晩餐会でも提供されるほど、高く評価されているお酒。
http://www.shushinkan.co.jp/index.html

参考にしたのは、ワイン市場

—「福寿」をどんな人に飲んで欲しいとお考えですか?

「日本酒をもっと若い人にも飲んでもらいたい」坂井氏はそう言い切りました。

メーカーなので、販売先は卸が基本。ただ、直接買いに来る人や、同社が経営する料亭「さかばやし」の客層は、現在は多少年齢層が低くなったものの、まだまだ40代以上が中心とのこと。若い人にも日本酒についてもっと知ってもらい、飲んでもらいたいというのが同社の考えです。

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では、若い人に飲んでもらうために、どんな取り組みをしているのでしょうか。最も興味深かったのは、ワイン市場を参考にしている、という点です。

—なぜワイン市場なのでしょうか。

「百貨店などのお酒コーナでは、日本酒の隣にはワインがたいてい置いてありますよね。ワインのパッケージは鮮やかでオシャレですが、日本酒のパッケージは瓶が茶色く、地味なものが多いんです」。

ワインは若い女性にも受け入れられている、その要因のひとつがオシャレさにあるのではないか、神戸酒心館はこんな仮説を立てました。もっと若い女性にも飲んでもらいたい、そのためにワインからエッセンスを学べないだろうか — そこで考案されたのが、こちらの「福寿 吟醸 Rosa」(写真左)。

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若い女性に手にとってもらいやすいようオシャレなパッケージデザインに。ワインの良さを大々的に取り入れたパッケージであり、日本酒としては思い切ったデザインです。*「福寿 吟醸 Rosa」の売上の一部は、ピンクリボン運動にも貢献しています。

さらに、アルコールの度数を1度下げることで、女性にも飲みやすく、料理にも合いやすいように工夫しています。

—1度下げると何が変わるのでしょう?

「1度下げるだけで、飲みやすさが全く変わってくるんです。通常だと、15,6度ある日本酒を14度に落として提供しています」と話していました。たしかに、ワインのアルコール度数は、日本酒のアルコール度数よりも少し低いものがほとんど。神戸酒心館は、アルコール度数についてもワイン市場を参考にして商品開発をしていると考えてよいでしょう。

上記の「福寿 吟醸 Rosa」だけでなく、例えば「福寿 純米大吟醸」のブルーボトルなど、福寿の品種によって異なる味に合わせパッケージを大きく変えています。

カラフルなパッケージは、消費者にとっても楽しいですよね。

小学生へのアプローチ

他にも、「ワインのプロモーション活動で見習うべきところがある」と坂井氏は語ります。ソムリエやワインセラーの管理など、ワインを美味しく飲んでもらうためのいわゆる「啓蒙活動」は、日本酒の業界では、今まであまり活発ではなかったとのこと。そのため、同社では様々な「啓蒙活動」としての取り組みを試みています。そのなかのひとつに、小学生への酒蔵体験があります。

—小学生はお酒を飲めないですが……?

「ある美術館の館長が話していたことですが、幼少期に一度も美術館に行ったことのない子どもは、大人になっても行かないそうです。それはどの業界においても同じだなと。だからこそ、日本酒は飲めなくとも、幼少期から日本酒についてよく知ってもらえる機会を提供したい」と坂井氏はその意図を説明します。畑が全く違う美術館の話を、日本酒の業界にも取り入れる。その柔軟な対応に驚きを覚えました。

ほかにも、複雑な日本酒の造り方を詳細に見せられない酒蔵も多いそうですが、同社が実施する酒蔵見学は、参加すれば誰でも醸造施設まで見ることができます。醸造施設まで見せられるのは、同社のほかにあまりないとのこと。

「一般の消費者に、メーカー自らアプローチするのはなかなか難しいところもあるんです」と坂井氏は語っていますが、同社では「日本酒業界」の枠組みに囚われない挑戦をし続けています。それを支える土台には、ユニークなものがありました。

それは、社長からトップダウンでは降りてこない、という点。なんと社長も稟議を通し、話し合って決めているとのこと。風通しの良い社風なのだと感じました。社長が新しく始めることにも、社員全員が納得して実行できる。日本酒業界問わず、それができる企業は少ないのではないでしょうか。

六甲の恵みに感謝し、灘五郷で連携を図りたい

—2008年から2014年で、生産量が2倍になったということですが、今後、力を入れていきたい取り組みはありますか?

「うちだけでなく、(灘の地域全体での酒造りは)兵庫県の恩恵を受けています。宮水や、寒暖差によってできた美味しいお米、江戸時代から整備されていた海運など、他の地域にはないものがこの地域には集約しています」と坂井氏。

だからこそ、六甲山の恵みに感謝し、地域に貢献するため、同社では兵庫県緑化推進運動にも取り組んでいます。社員総出で緑化運動に参加する日もあり、「山を大事にしたい」という想いが伝わってきます。

さらに、酒造りに恵まれたこの灘の地域で、「灘五郷として連携して活動していかなければならない」、と力強く将来の展望を語っていました。

インタビューを終えて

同社で取り組まれている消費者への多様なアプローチは、「日本酒業界」の枠組みに囚われずチャレンジしているという点で、非常に面白いと思います。

また、狙いたい消費者ターゲットに対して、製造から商品のプロモーションまで、各部署が同じ方向を向いて取り組めるというのは同社の大きな強みではないでしょうか。各部署のせっかくのマーケティング戦略も上手く機能しないでしょう。

海外への販売にも力を入れている同社。今後の取り組みにも注目したいですね。


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