本日インタビューに答えていただいたのは、高嶋酒類食品株式会社の営業部長、豊山和仁様です。同社のコミュニティスペース『こうべ甲南武庫の郷』にある、甲南漬資料館の館長でもあります。
会社紹介
高嶋酒類食品株式会社(以下では高嶋酒類食品と記載します)は、1870年に酒粕の仲買業の傍ら、酒粕を利用した焼酎「粕取り焼酎」の製造を始めました。2010年には創業140周年を迎えています。
創業当初高嶋酒類食品は、周辺の酒蔵から出る酒粕を利用して、粕取り焼酎の製造・販売をしていました。1896年にはそれに加えてみりんを、1904年にはみりん粕と酒粕で野菜を漬け込むなら漬の製造販売を始めました。「六甲山の南で漬けたなら漬」ということから、「甲南漬」と命名されています。
現在は、焼酎の製造は行われていません。しかし本みりんと甲南漬は今も製造されており、高嶋酒類食品の看板商品として、贈答品シーズンなどには非常に多くの注文が集まるそうです。
コミュニティスペース『こうべ甲南武庫の郷』
インターネットでの販売や、モダンなデザインの甲南漬の販売など、興味深い取り組みを行っている高嶋酒類食品ですが、本記事では豊山様が「我が社の宝」とおっしゃる、同社のコミュニティスペース『こうべ甲南武庫の郷』の持つ魅力について取り上げたいと思います。
『こうべ甲南武庫の郷』は、阪神淡路大震災後の1997年に誕生しました。甲南漬の歴史を知ることができる甲南漬資料館や、のんびりできるイベント広場や、お食事処、そして高嶋酒類食品の直売所などで構成されています。また、甲南漬資料館の2階では、多様な講座が開講されている甲南カルチャー倶楽部が行われています。
観光客と『こうべ甲南武庫の郷』
−資料館を訪れる観光客が多いと伺いました。なぜ観光客に人気なのでしょうか?
「そうですね。弊社(高嶋酒類食品)は、灘五郷酒造組合の中でも唯一日本酒を製造しておらず、みりんを製造している会社です。それゆえに、灘五郷の資料館の中でみりんやなら漬(甲南漬)の歴史や製造過程が学べるのはここだけだということが、観光客の方々が立ち寄ってくださる要因の一つかもしれません。」
−直営店来場者の中で観光客の占める割合は高いですか?
「休日は非常に高いですね。数年前の大河ドラマ「平清盛」放送時には、1日20台以上の観光バスが来ました。最近では、観光バスなどの団体客だけではなく、酒蔵マップを持って酒蔵巡りをしている若いグループの方々にも足を運んでいただいています。」
−観光客の皆様に対して、展示解説をされているようですが、お客様の反応はいかがですか?
「熱心に聞いてくださる方が多いです。展示解説では手間暇かけていいものを作っている、こだわっている、ということを説明しています。製造過程などの展示解説を聞いていただいたお客様を直営店にお連れすると、甲南漬から本みりんまで、多くのものをお買い上げいただいております。」
昔ながらの製法を守っている高嶋酒類食品のみりんは、品質が高いことで有名です。同社が製造する「はくびし本みりん」は、直営店・公式通販において、900ml 1000円以上で販売されています。消費者の財布の紐が固いこのご時世において、消費者からの価格帯に関する問いに答えなければなりません。そんな中、高嶋酒類食品では、「こんなにこだわって作っているんですよ」ということを、資料館からしっかり発信し、消費者の「なぜこの価格帯なのか?」という疑問に対して回答を提示しています。
大量生産品の時代において価格競争に巻き込まれないためにも、消費者が感じる価格への疑問に対して答えをきっちりと伝え、消費者に納得してもらっている、という一連のコミュニケーションは、非常に興味深いものだと思います。
地元の方と『こうべ甲南武庫の郷』
以上、『こうべ甲南武庫の郷』が観光客に対して果たす役割について述べてきました。しかし、『こうべ甲南武庫の郷』は観光客のためだけの施設ではありません。
−『こうべ甲南武庫の郷』では、甲南カルチャー倶楽部と称して、様々な講座を開講されています。これらの意図を教えてください。
「地元の人に愛される会社・場所でありたいという思いで、震災後、旧会長宅をコミュニティスペースにしました。その思いを今も引き継ぎ、地元の人にどんどん来て欲しいという思いで、様々な講座(例えば、フラワーアレンジメント教室、前結び着付教室、先日通助がインタビューにお伺いした六甲味噌の社長をお迎えし開催しているみそ教室など)を開講しています。」
−一回の講座でどれくらいの人が訪れますか?
「看板講座である甲南漬教室には、甲南カルチャー倶楽部の約300名の会員のうち、1日で約90名の参加があります。こういった講座を積極的に受講してくださる方々は、直営店でも常連さんになってくださっています。」
登録者の約3分の1(!)に該当する約90名(!!!)という大勢の方々が主体的に体験講座に参加しているということに高嶋酒類食品が地域の中に根付いているのを感じました。
こういった「地域に根付き、強力なファンを構築する」という戦略は、地場産業が得意とする戦略のひとつだと思います。高嶋酒類食品のこのような取り組みから、強い歴史性・地域性を持つ企業は、お得意様にずっと愛される店を作る、お得意様にさらにご利用いただく、ということが極めて重要であることを再確認させられました。
しかし、高嶋酒類食品が観光客を軽視しているわけではないことは、前述の通りです。『こうべ甲南武庫の郷』をとおして、観光客と地元の方々という両極端なお客様に対して、アピールを上手に行っていることが、同社のバランスの良い強さの秘訣であると思いました。
取材を終えて
『こうべ甲南武庫の郷』という空間が、観光客にとっては「製品のこだわりについて学ぶ場所」、地域の人々にとっては「のんびり食事を楽しむ場、あるいは、いろいろなことを学ぶことができる面白い場所」になっています。資料館に隣接する直営店での売り上げ、そして長期的なブランド構築に大きく貢献している、という構造が非常に勉強になりました。
(甲南漬資料館に保存されている、高嶋酒類食品株式会社などで利用されていた品々)
豊山様自身も課題として挙げられたこととして、灘五郷のひとつ、「御影郷」全体として観光客をどう受け入れていくか、ということがあります。140年以上前から酒粕をとおした関係が続いてきた同社と灘の酒造メーカーですが、今後は、御影郷の酒造メーカーと連携して、酒蔵巡りをする観光客を増やす、若い人々になら漬や日本酒をどのようにアピールしていくべきかを考える、そして観光客一人当たりの消費額を高めるための戦略を定める、といった関係を構築していくことが求められているかもしれません。
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本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
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