非常にうまい倉敷市の観光戦略

観光の目的は大きくわけて、買う、食べる、体験する、と分けられるのではないかと思います。倉敷は「体験する」に徹底的にフォーカスした非常にうまい観光戦略をとっているように感じました。

倉敷には、特産品と呼べるようなものがあまりありません。備前焼やきびだんごを売っているお店はかなりたくさんありましたが、決してそれは倉敷の特産ではなく、周辺の特産品でしかありません。倉敷の特産品と言えるのは、倉敷帆布やジーンズくらいでしょうか。残念ながら現時点では、それらに客寄せとしての大きな期待はできないでしょう。したがって、「買う」「食べる」ではなかなかエッジを立てることはできません。

写真にもあるように、倉敷は古い町並みが残されている一方で洋風の芸術も盛んな文化的な都市です。このユニークな文化資源を倉敷は上手に活用しているように見えました。印象に残ったいくつかのポイントのうち、他の観光地にも応用可能と思われる 2 点を述べてみたいと思います。

  1. 数多く存在する 1 日で完結するモデルコース
  2. 夜間ライトアップ

数多く存在する 1 日で完結するモデルコース

倉敷観光 Webモデルコースにも 44 ものモデルコースが紹介されていますが(2012/11/1 現在)、すべてある特定のテーマに沿ったコースになっています。しかもそれらは 1 日で完結するコースとなっており、それによって多くの日帰り旅行客を獲得していると思われます。もちろん、ウェブだけではなくパンフレットや観光局のスタッフの方からも同様の話をしっかりと聞くことができます。実際観光客を観察してみたところ、荷物の多い観光客がかなりの数存在しており(=荷物を部屋に置いていない)、おそらく日帰りではないかと見受けられました。同時に倉敷の持つストーリーを体験できるようなコースとなっており、結果として倉敷に対する情緒的な結びつきであったり、観光地としての倉敷の深い理解につながっているのではないかと思います。ブランドづくりのうまさとも言えるかもしれません。

1 日で完結することによる手軽さと、パターンの豊富さ、ストーリーの提供を通じたブランド化によるリピーターの確保を両立している好例といえるのではないでしょうか。実際おみやげ屋で、「あらお久しぶり」といった常連っぽい会話も繰り広げられており、リピーターの多さをうかがい知ることができます。なお、倉敷では毎週のようにイベントが開催されており、これらもリピーターを呼び込んでいると思われます。

夜間ライトアップ

夜間ライトアップは、倉敷のもつ「古い町並み」という強みを徹底的に活かし、「日帰り観光客が多い」という弱みに対して対策するという意味で非常に優れたプランだと感じました。写真とったんですけど、あまりうまく撮れなかったので、本家からどうぞ

和の町並みが間接照明によってライトアップされた光景は、非常に幻想的です。なかなか他の観光地では体験することができないでしょう。ライトアップすることにより、倉敷でないとできない体験というものが生まれ、同時にあまり古い文化に関心を持たない若い人たちを取り込むことに成功しています。

また、前項で述べたように、倉敷は積極的に日帰り観光客を誘致していると思われますが、当然倉敷に対する経済効果としては宿泊客のほうが大きいわけで、倉敷市としても宿泊客を増やしていきたいところでしょう。夜間ライトアップによって必然的に夜間の滞在が増え、結果的に宿泊客を増やすことに成功しているのではないでしょうか。倉敷市の政策評価シートによると、宿泊客数は増えているようです。理由として夜間ライトアップは挙げられていないのですが、この認知を広げていけば宿泊客は増えていくのではないかと思われます。

他の観光地への示唆

モデルコースもライトアップも、そのままでは他の観光地に応用することは難しいでしょう。しかし、日帰り客を取り込んでリピートさせるという考え方と、他には存在しない資源を使って観光客を呼びこみつつ課題を解決するという施策には学ぶところが多いように思います。


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜

ポイント

  • 観光地は徹底的に持っているユニークな観光資源に集中するべきである
  • 日帰り客を増やし、彼らにリピーターとなってもらえるような施策を打ち出すべきである。
  • 真似のできない観光資源を有効活用しつつ、観光上の課題と結びつけた施策を探し出すことは重要である。