『へてから』の魅力、伝えたい(株式会社竹芸有馬籠くつわ)

伝統工芸品を作る職人を想像するとき、「伝統を引き継ぎながらも、現代の需要 にどのように合わせて作られているのだろうか?」、ということに興味がある人は少なくないと思います。今回は、代表取締役であり、職人歴 47 年の轡(くつわ)幸男氏、息子で職人歴 28 年の轡豊氏にお話を伺いました。

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株式会社竹芸有馬籠くつわ紹介

株式会社竹芸有馬籠くつわには、16世紀の古文書にも記録が残っている「有馬 籠」の技術を継承している最後の職人3人が所属しています。彼らが製造する竹工芸品は、兵庫県の伝統工芸品に指定されています。
http://www.arimakago.jp

徹底したお客様との会話

竹芸有馬籠くつわでは、伝統的に関係が強い茶道、華道の関連のお道具以外に、10数年前から、バッグやブレスレット、ペットボトルカバーなど、新しい商品を作成し販売しています。幸男氏が、「じっとお客を待っていてはいけない、外に出ていかなくてはならない」と思ったことがきっかけであるそうです。

−女性向けのバッグが好評とのことですが、なぜこのようなものをお作りになろうと思われたのですか?

百貨店や、直営店でお客様や店舗関係者と様々なお話をしたことで、女性のお客様は身に付けることが可能で、持っていて自慢できるようなものが欲しいのではないか、と考えたからです。その仮説を踏まえてバッグを製作しました。そのバッグは直営店に持って行き、配置したとたんに「こんなの欲しかったのよ!」と常連のお客様が買って行かれたという。それ以後バッグは、直営店の人気商品となっています。

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−このような「人に自慢できるものが欲しい」という欲求は、お客様から直接聞かされたことなのですか?

「そういうことを口に出しておっしゃる方は少ないですよね。しかし、徹底的にお客様や百貨店の関係者にお話を伺い、催事場でよく売れているものの観察、店内での会話を聞く、ということをした上で、それらに共通する根本を考えました。」と、息子の豊氏。

「私がこれを買う理由は、これを買って人に自慢したいからです!」と素直に答える人は男女問わずほとんどいないでしょう。そういった中で、お客様や百貨店関係者との会話を徹底的に行い、考え抜くことで、上手にお客様の真のニーズを読みとっています。さらに興味深いのは、購入されているお客様だけでなく、購入はしなくとも商品を眺めているお客様にもヒアリングを行っているという点です。こういった徹底的なお客様目線、そして、その情報から根本を考えるという能力は、あらゆる分野の人々が身につけなければならないものだと思います。

『へてから』というコンセプト

−お客様にとって、竹芸有馬籠くつわの商品はどのようなイメージであって欲しいですか?

「商品を使って良かった、ということを提供することが一番重要だと考えています」と幸男氏は即答しています。

このようなイメージと合致するもので、竹芸有馬籠くつわが大切にしているキーワードが「へてから(経てから・時間が 経ってから)」です。

−最近、質にこだわる様々な職人さんとタッグを組み、『へてから』という新しいお店を立ち上げていますね。店のキーワードである『へてから』とはどのようなことを意味しているのでしょうか?

「しっかりとした手入れをすることで、数十年のスパンで利用することができ、商品自体の魅力が上がっていく、という意味を持った言葉が『へてから』です。竹の特徴として、竹の色の変化があります。10 年以上経つと、ものすごく味のある色になりますよ。そして、うちの製品はお客様に、『へてから』の魅力を味わってもらうために、見えない部分にこだわり、数十年使っても壊れない製品を作っています」。

「お客様には、購入したその商品の『へてから』を作っていって欲しい」、という思いで、手入れ方法を丁寧に説明しているそうです。こういったお客様に寄り添った対応も、会社そして幸男氏や豊氏という職人を追いかける常連さんが多い理由でしょう。

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インタビューを終えて

あるモノを売ることを考える際に、「モノ売り」から「コト売り」へ、と いうことが 1 つのキーワードになっています。そういった環境において、「愛着を持って利用することによって、バッグの魅力がどんどんと高まっていく」「愛情を持って手入れをすることで、自分だけの色合いのバッグになる」といった竹の特性は、「1つの良いものをずっと使い続けたい」「ものに愛着を注ぎたい」と考える消費者に対して、魅力的な要素なのではないか、と考えます。

竹の価値や魅力をどのように伝えていくか–『へてから』が持つこういった特性を、コト売りの要素として打ち出してゆく、という方向が一つの解決策なのだと理解しました。

モノ売りからコト売りへ ~長期顧客を獲得したければ、感情的インセンティブを刺激すべし。


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