卒業旅行、社員旅行を逃すな! 短期から中長期へ 「マジ部」×大分県の取り組みから学びたいこと。

卒業旅行を始めとする”イベント旅行者”に対する心構え

サークル旅行、卒業旅行、社内旅行、町内会旅行、、、、と数多くのイベント旅行は観光地にとって大切な顧客であるとともに、難しい顧客です。なぜなら一般的に「旅行」を考え計画してきている人たちはその観光地自体=「場所」を目当てで訪問しているのに対して、イベント旅行における「場所」はあくまで企画の満足度を底上げするためのツールでしかないというケースが往々にしてあるからです。イベント旅行の基本的なプランとして観光名所を回り名物を食べ、夜には旅館の部屋で宴会をするという流れが想定されます。この場合体感時間は短く旅の思い出は写真の中には残るが、心の中に鮮明に観光地が残ることは少ないでしょう。

イベント旅行における楽しさの根幹にあるのは「一緒に行った人たちとの楽しい時間」であり、観光地という場所自体はその楽しさを増幅させてくれる1要素に過ぎない場合が多いのです。イベント旅行の参加者にリピーターとなってもらうには仲間と共に過ごす「時間」を楽しむプランから観光地という「場所」を楽しむプランへとる必要があるでしょう。

「マジ部」×大分県「お湯マジ22!」の取り組みとその利点

イベント旅行の中でも大学の卒業旅行者を狙い「マジ部」が大分県と手を組み面白い企画を始めています。それが「お湯マジ22!」という「22歳であれば大分県内で提携している日帰り温泉が全て何度でも無料になる」というものです。

狙いとしては22歳が4年生大学卒業の年である為「学生最後の思い出合宿」や「人生の船出の前の垢落とし」などをキャッチコピーとして掲げ、卒業旅行を主なターゲットとして設定しています。重要な点としては無料にする対象を宿泊費や食費などではなく”温泉の入浴料”に設定したところでしょう。源泉量や湧出量は日本一を誇り「おんせん県おおいた」の商標登録を果たした大分県としては温泉は大分県の魅力発信をする際の主力選手です。大分に来た際には温泉を十二分に堪能し特産品なども楽しみ大分県に愛着を持って欲しいところであるが、温泉は平均600円程度入浴料がかかる上に通常は1つの温泉を堪能し複数の温泉をはしごすることもないでしょう。

大分県は今回「マジ部」との連携で「日帰り温泉無料」を打ち出すことで、旅行において複数の温泉を回る事の動機付けを行っています。旅行における温泉が占める時間の割合を増やすことで、旅行における温泉の重要度を高めることが可能となり大分県としての特異性を出すことができるでしょう。すなわちイベント旅行の舞台としての観光地から観光地を楽しむ旅行へと大きくその存在を変え、記憶に残りリピーター化を促せると考えられます。

その場所でしかできない体験というのは中々探すのが難しいでしょう。質が落ちたり趣向が少々変わったりを許容すれば類似の体験は日本各地で可能であると思われます。言うなれば温泉に入るのであれば大分県でなくとも鹿児島県や群馬県でも良いのです。しかし、観光地としてはリピーター化してもらうためにもその観光地であるからこその価値提供をしなければなりません。代替不可能なサービス、想い出を提供することによって特別感を持たせリピーター化を促せる事が重要となってきます。

サービスのコアの部分(温泉=入浴料)を無料にする事は収入面での痛手になるように思われますが、それによって潜在層の来訪を促す事も可能となります。収入に関しては来訪者が増えることで周辺収益が必然的に高まると考えられるため周辺施設との連携を考えることで結果的に収益アップに繋がり得るかもしれません。観光地側視点ではなく来訪者視点に寄りどの点をサービスしたら観光地を十二分に楽しめるかを考えた上で、割引など考えていく必要があるでしょう。

「時間」と共に「場所」を楽しませることに成功した観光地はリピーター獲得に至ります。サービスを考える上で中長期的に顧客を育てる必要があるため、”観光地”という場所自体を楽しむ部分を割引することで観光客の再訪や消費活動をアクティブにすることを意識するべきでしょう。


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜

ポイント

  • イベント旅行では「いかに旅館の宴会場から外に出すか?」が重要となってくる。
  • 観光地側はサービスにおいて中長期的に親しまれるためにどのようにして観光客を育てるかという意識を持つべきである。
  • 集団客に対して1〜2人で来た時にも楽しめている姿を想像させるべく「場所」自体を楽しむ時間を多くとれるように誘導すべきである。

(注)
「マジ部」とはリクルートライフスタイルとじゃらんが2011年から19~22歳を対象に行っているサービスである。「マジ部」ではリフト券やゴルフのプレー代を無料にするなどして若者層からの新規顧客獲得と共に食事やレンタル、宿泊など周辺収益を目論むサービスである。リフト券を無料にすることで新規客の獲得を目指す「雪マジ19!」では利用者の9割がリピーターとなりスキー場の利用者増に大いに貢献している。(じゃらんリサーチセンター調べ)