山を活かしたアートイベント〜活性化の継続に向けて〜(六甲山観光株式会社)

六甲山観光株式会社は、まず六甲山にケーブルカーを開通させて交通の便を整備し、その後、高山植物園やオルゴールミュージアムといった施設を充実させることで、「六甲山」を関西でも屈指のレジャーマウンテン(レジャーの要素を取り入れた山)として成長させました。今回は、そんな六甲山観光株式会社の中でも比較的新しい取り組みである「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」にスポットライトを当て、この取り組みが、六甲山の活性化にどのような影響を与えているかについて、営業企画室の堀美知さんに話を聞きました。

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」
http://www.rokkosan.com/art2016/

六甲ケーブル 山頂を目指す途中も緑が溢れ趣がある

六甲ケーブル 山頂を目指す途中も緑が溢れ趣がある

閑散期の集客を図るツールとしてのアートイベント

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」とは、どのような取り組みですか?

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」は、六甲山上を舞台に展示される数々のアート作品を、ピクニック気分で周遊しながら楽しめる現代アートの展覧会です。作品とともに六甲山の景観や豊かな自然を楽しめるのが特徴です。

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」を始めたきっかけは何ですか?
六甲山では、ゴールデンウィーク、夏休み、紅葉の季節には、ハイキング客や家族客を中心に、六甲山カンツリーハウスや六甲高山植物園といった自然と触れ合う施設が多くの人で賑わいます。また、冬期もウィンタースポーツを楽しめる六甲山スノーパークが人気を博しています。
ゴールデンウィークや夏休みが5月〜8月末、紅葉が10月下旬から11月中旬、冬季が12月上旬から3月末だとすると、9月から10月にスッポリと穴が開きます。

広大な自然が魅力的な六甲山カンツリーハウス

広大な自然が魅力的な六甲山カンツリーハウス

季節の草花を楽しめる六甲山高山植物園

季節の草花を楽しめる六甲山高山植物園

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」は実は、この空白期間中の集客を図るために企画されたものです。2010年の第1回より、9月中旬から11月下旬に開催しています。

9月から11月は四季でいうと「秋」だと思いますが、「食欲の秋」「読書の秋」など、数ある秋の中で「芸術の秋」を選択したのは何故ですか?

私たちが「何か秋シーズンに集客を図るいい方法はないか」と模索していた当時、世間から注目を集めていたのが瀬戸内国際芸術祭をはじめとする地方の特色を活かしたアートイベントです。これらのイベントを見て、「芸術で六甲山を活気づけることができる」と確信しました。
なぜなら、六甲山という舞台には、アート作品の展覧会場として他にはないさまざまな魅力があったからです。

外国の庭園を思わせる六甲ガーデンテラスから望む「自然体感展望台 六甲枝垂れ」の景色

外国の庭園を思わせる六甲ガーデンテラスから望む「自然体感展望台 六甲枝垂れ」の景色

SNSを駆使しイベント情報を拡散させる仕組み

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」で留意されている点はありますか。

まずは他のアートイベントとの差別化です。展覧会名には、「芸術散歩」というものが入っています。山上での展覧会ですので、ピクニックや散歩の要領で気軽に楽しんでもらいたいという思いが込められています。そのため展示されるアート作品は、一ヶ所に集積するのではなく、適度に散在させつつ何日もかけないと全部見れないというほどエリアを拡散させているわけではありません。1日で気軽にめぐることができるようにしています。特性の異なる施設をめぐりながら、六甲山本来の魅力に気づくことができます。

六甲オルゴールミュージアム内でのコンサート

六甲オルゴールミュージアム内でのコンサート

瀬戸内国際芸術祭に代表されるように、その土地の特性を活かした期間限定のアートイベントは全国で開催されています。また、9月〜11月は行楽シーズンでもあるので、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」と同時期に開催される競合のイベントも少なくないはずです。このような状況下で観光客を獲得するために重要なことは「そこにしかないもの、ここでしかできない体験」をいかに打ち出すかです。その点において、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」では、六甲山にしかないものをうまく活用しているといえます。

他に何か工夫されていることはありますか。

「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」をSNSなどでより拡散させる仕組みとして、「原則撮影OK」のルールを作りました(一部例外あり)。面白い・楽しい経験をすれば、情報を誰かと共有でき、また投稿されたものに対する反応も即座に共有できます。六甲山の眺望や、カフェやレストランでの食事と一緒に、アート作品の写真をフェイスブックやインスタグラムといったSNSで投稿してもらうことで、六甲山をより魅力的な場所として発信してもらえます。
「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」の会場では、スマートフォンを片手にSNS上の写真を見ながら作品を探す若い女性の姿がたくさん見受けられました。

SNSユーザーを想定して「原則作品の撮影OK」のルールを実施することは、非常に良い取り組みだと思います。
昨今「DIY女子」という言葉がブームになっていますが、これも元をたどれば女性の「共有・共感したい」という気持ちを刺激することで起こった現象であるといえます。そもそもDIYといえば、「お父さん」のような男性が中心の市場だったことはご存知でしょうか。「日曜大工」という言葉からも想像できますよね。
しかし、SNSが台頭したことで、DIY市場にたくさん女性が流入するようになりました。自分で作った家具や小物、もしくは「手作りした」という体験を「共感・共有」したい女性たちが、SNS上でたくさん写真を投稿したからです。
かつては工事現場さながらに無骨だったホームセンターの内の作業場が、今や撮影ブースを備えたおしゃれなアトリエと化している場所も少なくありません。
女性に対して、撮影できる「もの」と「場所」を提供することが、「情報を拡散する」という目的を達成するうえで有効な手段であるといえます。

イベントのマンネリ化を防ぎリピーターを繋ぎ止める

展示される作品はどのような客層を意識したものですか?

作品の選定において私たちが意識すべきことのひとつは、リピーターの存在です。

今年で7年目となる「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」ですが、お陰様で2012年からは毎年1万5000人を超える方にお越しいただいています。6年間継続する過程でこれまで、台風被害によるケーブルカーの運休や天候不順などさまざまなトラブルもあったのですが、それでも毎年一定の集客を達成しているのは、それでも六甲山まで足を運んでくれるリピターターの方たちがいるおかげです。
実は私たちが、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」を運営するうえで今最も重要視しているのは、こうしたリピーターの方を満足させるための「新しさ」の追求です。
「去年と同じ」と思わせないことも当然ですが、リピーターの場合、コアなアートファンが多いことが特徴のひとつとして挙げられます。そのため、「去年見た」に加えて「どこかで見た」という領域も避けなければなりません。そこで、出展アーティストのその年の新作を依頼しています。

森太三「関係のベンチ」2015年

森太三「関係のベンチ」2015年

インタビューを終えて

「新しいものを提供する」と「新しいものを提供し続ける」という2つの命題。似たものどうしに思えますが、達成難易度という点においては、この二つの間に決定的な違いがあります。後者の方が圧倒的に難しいということは想像がつきますよね。
新聞や雑誌、地域創生に関する書籍やブログで、よくイベント開催による地域活性について、「継続性」の側面から議論されているのを目にします。それらによると、イベント開催期以外の集客が見込めないこと、イベント開催に伴う地域の経済面でのダメージ、イベント終了後の運営者側のモチベーションの低下などの問題点が指摘され、「イベント=一過性」という結論に達しています。
しかし、イベント開催において最も難しいのは、毎回新しい「何か」を提供し続けなくてはならない点ではないでしょうか。
漫画や雑誌の連載、テレビ番組などと同じで、「ネタ切れ」「マンネリ」になった時点で今まで築き上げてきたコンテンツが陳腐化へ向かい始めます。

その点、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」では、「作家に毎年新作を出展してもらう」という方法でイベントのマンネリ化を上手く回避してるといえます。
玄人から見てもクオリティーの高いアートイベント。それでも堀さんは、先述のように、毎年「新しさ」を演出することを最も重要視していると回答しています。確かに、全国的に地域に根差した芸術祭がどんどん増えゆく中で、作品の新しさに加えて「見せ方の新しさ」や「アート+αの新しさ」が必要になるのかもしれません。
地域活性における最も重要なことのひとつとしてよく「継続性」があげられるのですが、今回のインタビューでは改めてこの継続すること、とりわけ「新しいものを提供する」ことを継続することの難しさを感じさせられました。

今回の取材にご協力いただいた六甲山観光株式会社 堀美知さん

今回の取材にご協力いただいた六甲山観光株式会社 堀美知さん


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜