移住促進における経済的インセンティブの付加が危険な3つの理由

今日の地域活性化をめぐる議論において、政府の政策としての「地方創生」推進・「ひと・まち・しごと」関連、あるいは草の根的な動きとして「田園回帰1%論」などの戦略が立案されています。これらから、「移住促進」ということに関するウェートの大きさ、そして移住者にかけられている期待感というものをひしひしと感じる今日この頃です。

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現在、人口減少によって地域に収入をもたらそうとする施策を担う主体までもが失われつつあります。

そんな環境においては、当たり前ですが「移住者の獲得」ということが、そこで生活するひとを増やすことによって、地域の収入を増やす(食費・住宅費・税金などを払い、地域に収入をもたらす主体としての移住者)ための手段だけとしては捉えられておらず、観光・医療・地域企業を支え、さらに多くの収入をもたらすことが期待されているわけです。

今日において、多くの自治体が移住促進に注力していくことは間違っていないと思います(通助は地域活性化を「地域が得られる収入」というベースで議論しようとするプラットフォームです。通助の地域活性化への想いはこちらをご覧ください )。

地域活性化は競争だ

そんな中で、移住者の獲得に対して「非常に大きな金銭的インセンティブ」を支払う事例が、大きな話題になりました。例えば、鹿児島県三島村における「牛一頭/50万円、月額8万5000円を3年間支給、その他準備金支給」といった事例、あるいは北海道深川市の「1坪を980円で販売」といった事例などです。これらのニュースは大きく拡散し、話題を集めたように思います。

ですが、このようにして移住を促進することは本来の目的である「地域の収入増」につながるのでしょうか?こういった取り組みには様々な問題点があり、地域にとって極めて大きな損失があるんじゃないですか、ということについて以下では3点の理由からお話をしていきたいと思います。

1.移住希望者にとって価値が低下するのでやめるべし

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通助を運営しています株式会社ホジョセンでは、地域企業の方々などに対しての研修をさせていただいております。

その際に非常に良く使う研修資料において、「顧客にとっての価値」を、

Value (顧客にとっての価値)= Equity(ブランドの持つ有形・無形の資産) / Price(値段)

という公式で定義しています。
これは、顧客にとっての価値を向上させるための手段は2通りしかないことをお伝えするためのものです。つまり…

  • 品質を上げる
  • 値段を下げる

の2通りです。(このスライドを含んだ地域ブランディングに関わるレポートが無料でダウンロードできます。詳しくはこちら!

品質を上げること(移住政策において品質を向上させる方法については、この記事では触れていません。こちらの記事をご覧ください。)の難しさに比べて、値段を下げることは容易です。

移住政策を考える人のための「移住・交流情報ガーデン」「全国移住ナビ」入門

しかし価格を下げることによって「長期的な価値の増大」を成し遂げることはできません。顧客が安売りに慣れてしまうと、「安い時だけ買う」、「安くなっていない時の値段が高いように感じる」ということになってしまうからです。つまり値段を下げることによっては、一時的にしか価値を上げることができないのです。

では、移住政策をこれに当てはめて考えてみましょう。上記のような「非常に大きな金銭的インセンティブ」を付与する取り組みによって、一時的に猛烈な価値の上昇が起こります(実際に三島村には、世界中から問い合わせの連絡が来たそうです)。

その年は問い合わせが多くてめでたしめでたしということになりますが、問題は翌年。役場に「今年は何か特典がないのか」という残念な連絡が来てしまうことは想像に難くありません。金銭的インセンティブがなくなった時、村に移住することの顧客にとっての価値は残念ながら大幅に低下してしまっているのです。

長期的に地域を支えてくれる移住者を受け入れていく必要がある移住促進政策において、こればかりは致命的です。このような政策には、金銭的インセンティブがつく間は移住者を獲得できるけれども、無くなった時にかえって状況を悪化させてしまっているという点で、極めて問題があります。

2.インセンティブ目当ての人しか来なくなるのでやめるべし

長期的な問題があっても、とりあえず地域を支える担い手を確保できてよかったじゃないか、地域は切羽詰まっているんだ、と反論される方もいらっしゃるかもしれません。しかしその移住者たちは、本当に地域に大きな価値をもたらしてくれるのでしょうか。大きな金銭的インセンティブを目的に移住する移住者の間では、「住むことではなく、もらえるものに価値を見出すような、価値の転換」が発生してしまうかもしれません。

つまり、「そこに住まないと<いけない>」けどインセンティブがもらえる、というようになっていないでしょうか、ということです。インセンティブが与えられることによって、地域の魅力に目が行きにくくなってしまい、「地域に住む」ことがインセンティブに比べて副次的な意味しか持たなくなってしまいます。これでは本来目指すべき「この地域が楽しいと思ったから来た!」という考え方とは真逆の方向に進んでいますよね。

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大きなインセンティブが与えられることは、「移住すること」が目的ではなく、「インセンティブが目的」の移住者を生み出します。そういった人は、その地域の魅力を発信するような仕事には向いていないかもしれません。それを踏まえると、地域経済の担い手として大きく貢献していく可能性は、インセンティブ無しで移住してきた人に比べて低い可能性があることが指摘できます。

3.迎える地域との無意味な軋轢を生むのでやめるべし

2点目では、熱意の低い移住者が増えるのでは、というお話をしたわけですが、3点目で述べたいことは、熱意の高い移住者が減る要素が大きい、そしてせっかく移住してくれても受け入れ側と揉める要素を生み出しやすい、ということを述べます。

過度な金銭的なインセンティブが付与されることは、その土地で長く地域経済に関わっていきたいという考えを持つ人を敬遠させる可能性があるということです。

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大きな金銭的インセンティブとともに地域に入ってきた人に対して、もともとその地域に住んでいる人びとが羨望の念を全く抱かない、というのは楽観的な考え方ではないでしょうか。最初から不和の種が撒かれてしまっている、ということは大きな問題ですし、長期的にその場に住むことを本気で考えている人ほど、そういった不和の種に敏感なのではないかと思います。そういった「真面目な人」に移住を避けられるようでは本末転倒です。

筆者もある地域で、「移住者は来るけど、ちゃんと地域のことを理解していなくて、春になるといなくなってしまう」という話を伺ったことがあります。

移住促進というのは、地域の収入を増やすための手段としてはかなり長期的な取り組みなわけですから、長期的に住んでもらう必要があります。そういった中で、真面目な人に移住を避けられる、あるいは受け入れ地域との不和を作る可能性がある要素が最初から存在していることは、賢明ではないでしょう。


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冒頭の「移住政策ってなんの意味があるの?」で述べたことですが、移住促進政策は長期的に地域経済を支えてもらうことによって、初めて地域活性化につながる政策だということを意識する必要があります。そのような「移住促進」という手段の特性を踏まえ、「長期性・継続性」という部分を失わない形での移住促進が必要になります。

顧客にとっての価値を公式で表した部分に戻ってみると、「Quality(=地域の持つ有形・無形の資産)」の部分を向上させるような取り組みが重要ということです。

地域の持つ有形・無形の資産を向上させていく取り組みは、金銭的インセンティブの付加に比べると困難でしょうが、必ず必要になります。通助を運営しております、株式会社ホジョセンもこの部分において地域をお手伝いできれば、と思っています。

それじゃあそれはどうやったらいいの、という質問に対しては、こちらの記事で移住者にとっての品質を高めることについて触れています、是非ご覧ください。

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本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

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