3つのポイントで解体! 経産省「地域ストーリー作り研究会」報告書

2015年2月10日に、経済産業省が「地域ストーリー作り研究会」報告書(以下では単に報告書とします)をweb上で公開しました(先んじて地域活性化ニュースでも取り上げています)。ディスティネーションマネジメント(観光客の目的地になるという視点からの地域マネジメント)という観点や、ペルソナ(マーケティングの対象とする象徴的な顧客のモデル)の作成を重視するなど、マーケティングの視点が生かされた、質の高い報告であると思います。

経験ストーリーと追体験ストーリー


報告書のタイトルにもなっている経験ストーリーという言葉はどのような意味で使われているのでしょうか。通助ではこれまで、「地域ストーリー」という言葉を利用して、地域のブランディングについて取り上げてきました(例えば、貴船に学ぶブランディング地域ストーリーとは何か?)。しかし、報告書のいう「経験ストーリー」と通助で述べた「地域ストーリー」は、少し異なった意味であることに注意してください。まず最初に、この2つに「追体験ストーリー」を合わせた3つのストーリーの定義を述べます。

地域ストーリー(通助):
ブランドの作り手が考える、ブランドのあるべき姿であり、ブランドの根底に流れるストーリー。
経験ストーリー(報告書):
地域資源から抽出された共通のビジョンにしたがって、それぞれの地域資源を位置付けや順番をもたせて配置したストーリー。
追体験ストーリー(報告書):
経験ストーリーを実際に体験した顧客の実感によって生み出されたストーリー。十人十色であり、ソーシャルメディアを通して、顧客から発信される。

地域のストーリーに関して、詳しくはこれらの記事をご参照ください。

今の実務に活かせる、地域ブランド成功事例に学ぶ地域ブランディング

地域ブランドにはストーリーが必要だといわれるが、そもそもストーリーってなんだろう?

では、このような経験ストーリーや追体験ストーリーを意識し、作ってゆくことは何の利益になるのでしょうか。この記事では、経験ストーリーは観光消費額単価と域内調達率を上昇させるため、オウンドメディアを活用する上で必要なため、観光客に優れた追体験ストーリーを発信させるため、に作る必要がある、という3つのポイントを紹介します。

域内調達率

域内調達率とは、観光客の消費のうち、地元の素材、地元の労働者を使って作られた価値の占める割合を指す言葉です。つまり観光客が、その土地の人が働いていないコンビニで大手メーカーの飲み物を購入するのと、その土地の人が働いている土産屋で地産の果実を使い地域で加工された飲み物を購入するのとでは、観光客が使った額は同じでも、地域経済に与える影響は全く異なる、ということを指摘する言葉です。
ではどのようにして、なんとなくコンビニで飲み物を買おうとする観光客を引き止め、地域で生産された飲み物を買わせるのか、ということですが、ここにおいて経験ストーリーが有用です。貴船のブランディングで少し触れました地ビール「スイゲン」ですが、清らかな水が湧き出る場所ですよ、というストーリーの中に配置されているが故に、観光客の「水がきれいな貴船に来たし、スイゲンを飲んでみるか」という意識につながっています。このように経験ストーリーの中に飲み物などの様々なものを方向性を合わせた上で位置付けることで、意識的に地域のものを購入するように、観光客を誘導できます。これが経験ストーリーを明確にすることのひとつの利点です。

今の実務に活かせる、地域ブランド成功事例に学ぶ地域ブランディング

オウンドメディアによるインバウンドマーケティング


報告書は経験ストーリーの広報において、マスメディアよりもオウンドメディアに注目しています。これは現在盛んに行われているインバウンドマーケティングの手法を利用したものだと考えています。
インバウンドマーケティングとは地域を例にすると、興味を持っている、もしくは興味を持つであろう観光客予備軍に、自地域を見つけてもらい、その人の望むようなコンテンツをタイムリーに提供し続けることによって、その人を実際の観光客へと育てあげるようなマーケティングを指します。このようなマーケティングを行うにあたり、経験ストーリーを明確にした上で、Blog等のオウンドメディアを日々更新していくことが重要です。

追体験ストーリーによるSNSマーケティング

それと同様に報告書が注目しているのが、その土地を訪れた観光客にそれぞれが行っているSNSで自身が経験した追体験ストーリーを発信してもらうことです。分かりやすい経験ストーリーがあれば、観光客が発信する追体験ストーリー(例えば、「昨日⚪︎⚪︎に行ってきました!××がすごく良かったです!みんなも△△と一緒に行ってみてください!」のような近況報告)も経験ストーリーが意図するコンセプトと大きく違わないものになります。そのようにして、追体験ストーリーを発信してもらい、観光客を広告塔として利用しようという魂胆です。こういった場面においても明確に経験ストーリーを作ることが重要とされるでしょう。


経験ストーリーを意識することは、基本的な地域ブランドのコンセプト作りをする上で非常に有用な考え方といえるでしょう。報告書を作成した方々、しっかりとした仕事されていると思います!

本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。

地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜

ポイント

  • 経産省のいう「経験ストーリー」とは、地域資源から抽出された1つの共通のビジョンにしたがって、それぞれの地域資源を位置付けや順番をもたせて配置したストーリー、を指します。
  • 経験ストーリーを明確に打ち出すことで、域内調達率・観光消費額単価が向上し、インバウンドマーケティングの有用性が上がります。また追体験ストーリーが明確になり、SNSを利用したPRがより充実します。