地域ブランド論 – 田中道雄/白石善章/濱田恵三 編著

地域ブランド論

こんな人にとくにおすすめ

  • 地域ブランド入門者で、どのような学術領域が地域ブランドに関わっているのかを知りたい人
  • さまざまな領域からの、地域ブランド振興事例を知りたい人

感想

僕も顔を出させていただいている地域ブランド研究会の研究成果をまとめた本。同文館出版、2012年。複数執筆者による論集で、実務家の方も含めて、全員アカデミックなポジションについているものの、学者論文にありがちなコンセプチュアルな議論は少ない。

180ページ足らずの薄い本ですが、内容はバラエティに富んだものとなっています。「地域ブランド」に関する本を読むと、その「地域ブランド」の指し示す領域が予想以上に狭いケースがありますが、本書はかなり広く取り扱っています。地域ブランドを「都市ならびに地域の空間的な広がりをもち、地域全体を指し示すシンボル体系としての地域ブランド」、地域資源ブランドを「名物、特産品、B級グルメ、地域特有のソフト資源など、個別・具体的な地域名を冠した資源ブランド商品や個別ブランド商品」(p. 6)と定義していることからも、そのカバーする広さは想像できると思います。

本書の一番の特色は、その学際性にあります。ブランド論という経営学的視点、景観形成という都市工学的視点、ブランド政策という行政学的視点、また、観光学、文化論など、多岐にわたっています。ひとつひとつの論述は、専門書に比べて薄くなってしまうことはやむを得ませんが、一方で自分の知らないエリアの地域ブランド的視点を学ぶには非常に便利な入門書と言えると思います。

同時に、豊富なケースとその応用可能性も入門者にはありがたい。各章に豊富なケースが提供されており、また一部の章ではケースの内容を元に一般論へと昇華させ応用性を高めています。一部の特殊なケースから導いている一般論ですので論理的確実性は担保されているとはいいきれませんが、仮説の提供という意味では非常に価値ある試みだと考えます。

また、アカデミックな執筆陣であるおかげで、豊富な参考文献・引用文献リストが存在しています。学際的であるがゆえに、すべてのエリアにおいてある一定の知識レベルを持つ読者は非常に限定されていると思いますので、参考文献から知識の深堀りが可能な点も本書の価値を上げていると言えます。

この多様性・学際性は同時に注意すべき点も生じさせています。本書の第1章、第2章はやや概念的に、ブランド化の理論的枠組やブランド論的枠組を提供していますが、必ずしも残りの章でその枠組をフォローしているとは言いがたい記述も多いです。また、異なる章における記述の重複、用語の不一致が散見されるので、読むときには注意が必要です。
 


本記事で説明してまいりました地域ブランドの育成に関係したものとして、本ブログの運営会社である株式会社ホジョセンでは、地域ブランド・地域ストーリー作りの課題について述べたレポートを発表しております。無料ダウンロードできますので、こちらもどうぞご覧ください。
地域ブランドの育成における課題〜企業におけるブランディングとの比較から〜